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【先生 ウチは揺れますか! 東大地震研・大木聖子の日誌】

大切な人 思い行動を 災害の教訓生かそう

地震は止められないけど災害は小さくできます。行動を起こしましょう

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 この日誌も今回が最後となりました。真下君は大学の近くに引っ越して、ますます顔を出す回数が増えそう。と言っていたら、さっそく…。

    ◇

 「大木さん、親が分かってくれないんですよ…」

 「もしかして結婚とか?」

 「いえ。地震の取材をするようになったら実家の耐震性が気になり始めて。親に電話して耐震診断しなくちゃ、と言ったんですけど、まったくヤル気なし。家具固定も」

 「地震はいつ起こるか分からないって説明した?」

 「今晩かもよ、と言ったら『じゃあ手遅れだね。出たとこ勝負しかないんだよ』なんて言うんですよ」

 「そうなのよね…みなさんそうおっしゃるのよ」

 「この連載、一回目から両親に送ってるんですよ。だから『予知は無理』とか『事前準備が全て』とか、頭では分かってるはずなんです」

 「災害や防災の知識を持つことと、実際に防災行動を起こすこととは別なのよ。知識を得れば地震を恐れて行動に移す、なんて単純なものじゃないわ(用語の解説参照)」

 「じゃあ僕たちが今までやってきたことってなんなんですか」

 「僕たちって…。とにかく災害をリアルに自分のこととして考えないと、防災行動には結びつかないのよ。真下君こないだ石碑を見たとき、いいこと言ってたでしょ」

 「災害の記録だけが残っても、被災した人の思いが伝わらないと本当には役立たないかも…っていうやつ?」

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 「そーそれよ。地震に遭った人の具体的な体験を聞くことで自分や家族の身に起きたら…って初めて想像できるんじゃないかと思うの」

 「うーん、たとえば?」

 「新潟県中越地震のとき、小学生の女の子が家の下敷きになり、おばあちゃんが『孫娘が死んだのは私のせい』と悔やむ話が新聞に出ていたの。孫をかわいがっている人がその記事を読んだら、ウチは地震がきても大丈夫だろうか…と気がかりになるんじゃないかしら」

 「そうか! 自分と重なる教訓があれば、きっかけになる」

 「地震などに遭った人から教訓を聞き取った『一日前プロジェクト』が内閣府のサイトにあるわ。その中に、真下君のご両親が耐震性を考えるきっかけになるような体験があるかもしれないわね」

 「でも、重なる体験があっても、自分自身のことって面倒くさくて、けっこう後回しにしちゃいませんか」

 「そうね。人って自分だけのためにはなかなか動かないのよね。孫を心配するおばあちゃんみたいに、家族とか誰か大切な人の命を考えたら行動に移せそうね」

 「そうか! 大木さん! 僕、大木さんのために防災行動をとりたいです!」

 「(え。これって告白?)あ、ありがとう真下君。でも私は自分で考えるわ。こんな最後にしたくなかったけど。ごめんなさい」 =おわり

 (この連載は、大木助教の体験にもとづき永井理が構成しました)

<用語の解説>

 【知識と行動】米国に次のような研究報告がある。食料難に悩むアフリカの子どもへの援助を募る際、協力者に対し、(1)ある一人の子どもの顔写真と名前を示してその窮状を説明する(2)各国で何人の子どもが食料不足に直面しているかという統計を示す(3)両方を同時に示す−の3通りのいずれかの説明をし、それぞれの場合の寄付額の違いを調べた。

 結果、(1)の説明をすると集まる寄付額が一番多く、(2)の場合は(1)の半額ほど。(3)は情報が一番多いのに額は(2)より少し多い程度だった。統計で全体像を眺めることで、問題を自分に引き寄せにくくなるのではないか。日本各地で地震が起きる確率を示す国の長期評価も、とらえ方には注意が必要かもしれない。

 【一日前プロジェクト】自然災害の被災者から「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」を聞き取った教訓集。詳しくは内閣府ホームページ(http://www.bousai.go.jp/km/imp/index.html)

 

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