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【長久保宏美のリポート福島】

絶版並ぶ店内に地域の体温 岡田さん 楢葉で古書店を経営

絶版のコミックなどがずらりと並ぶ店内を説明する岡田さん=福島県楢葉町で

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 東京電力福島第一原発から南に約二十キロ。福島県楢葉町に岡田悠(ゆたか)さん(39)が古書店「岡田書店」を開業させたのは、避難指示が解除された二〇一五年九月のことだ。いったい、どんな理由でここに店を開いたのかを知りたくて、訪ねた。

 常磐道の常磐富岡インターから、国道6号を南へ。放射線量が比較的高いエリアでは、沿道で見掛ける人影は、路地入り口のフェンス前に立つ警備員だけだ。楢葉町の脇道に入ると、道路工事が行われていた。雰囲気が変わる。町の三月末現在の居住者数は約三千人。住民基本台帳人口の四割まで増えた。

 店は、国道から住宅地に入った所にあった。平日の午後、三十代と思われる男性のお客さんが一人、マンガの品定め中。

 それにしても、わずかな町民しか帰還していなかった時期に、店を開いたきっかけは何だったのか。

 「ここにはもともと実家があり、両親と祖母、南隣の建物に兄一家が住んでいたんです。私は妻といわき市に住んでいました。それが、震災と原発事故で全員が、県内のほかの場所に避難することになりました。避難中に、母方の祖母は借り上げ住宅(みなし仮設住宅)で亡くなりました」

 小さい子どもがいた兄一家は、県中部の町に家を建てることに。ほかの家族も戻らないことになり「結局、この場所には、ぼくが住むことになったんです。誰もいなくなったら、家がだめになる」と早期の帰還を決めた。「それで、自分が住むのなら、好きな本の店もやろう、と」

 原発事故前から、いわき市内で父が営む古書店に勤務。十年ほど前からはその店を閉め、インターネット通信販売や、地元いわき市などで開かれる展示即売会を中心に営業してきた。「それまで何とか生活できていたので、楢葉で開くことに不安や迷いはありませんでした。むしろ、人生のチャンスだと思いました」

 商品の特徴は、絶版もののマンガだ。「少年マガジン」(講談社)の創刊四号や、手塚治虫らの「COM(コム)」(虫プロ)。このほか、昭和四十年代のコミックが並ぶ。父の手伝いをしていた頃から、古いマンガに興味があった。仙台市から通ってくるファンもいる。

 仕入れは東京・神田が中心。ネット通販のほか、売り上げの半分以上を、仙台や首都圏で開催される古本市での収益が占める。二日から東京都八王子市で開かれる予定の古本まつりにも出るつもりだ。

 楢葉の店に来るのは「これまでは、除染など原発関係の作業員が中心でした。最近は、中学生も。家族で戻ってきたんだと思います。『家を新築したので、床の間の掛け軸が欲しい』というおじいさんも来ました」。小さな店は、地域の体温が感じられる貴重な空間だ。 (福島特別支局長)

 

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