東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 東日本大震災 > 長久保宏美のリポート福島 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【長久保宏美のリポート福島】

広野町・従事者が急減進む高齢化 高級バナナで農業「覚醒」

バナナを栽培する予定のハウスを説明する中津社長=福島県広野町で

写真

 福島県広野町で、バナナを栽培する計画が進んでいる。それも、一本五百円以上で販売予定の高級品を育てようという。寒さに強い特殊な苗を使い、実現すれば東北・福島の特産品になるかもしれない。早ければ九月中にも、苗を植える予定だ。

 栽培を計画しているのは、町が100%出資する広野町振興公社。町やJA福島さくらと連携し、サッカーの練習拠点「Jヴィレッジ」近くの同町二ツ沼総合公園で栽培する。約八百平方メートルのハウスに、百本ほどの苗を植える。

バナナの成長を確かめるGPファームの担当者=千葉県成田市で(GPファーム提供)

写真

 いわき市の北隣に位置する町は、県内では比較的温暖な地域とされ、ミカンの栽培も行われている。とはいえ、冬には氷点下五度を下回ることもある。

 そんな寒い所でも、バナナを作れるのか。遺伝子組み換えもせず、農薬も使わない。ポイントは、苗だ。岡山市の農業法人「D&Tファーム」で取締役技術責任者を務める田中節三さん(69)が、四十年以上かけて開発した「凍結解凍覚醒法」という技術で、苗を育てる。

 苗木を一年がかりで氷点下六〇度まで下げて凍結させ、その後解凍。こうして氷河期を疑似体験させ、眠っていた耐寒能力を呼び覚ます。この状態で生き残った苗を選抜してポットで育て、大きくなったらハウスに移す。

写真

 既に、D&Tファームの地元・岡山県の百貨店では「もんげーバナナ」として、一本六百四十八円(税込み)のブランドフルーツとして販売されている。「もんげー」とは、岡山弁で「すごい」の意味だ。さらに、同社子会社の農業法人「GPファーム」(千葉県成田市・半田貴裕代表取締役)では、この栽培方法で成田市での生産を始めており、今秋にも首都圏で出荷を始める予定だ。

 広野町では東日本大震災後、使われていなかったハウスで栽培する。GPファームによると、ハウスを使うのは、室温を上げるためではない。葉が大きく、風に弱いバナナを守るためだ。また、収穫直前の雨で、自慢の糖度が下がってしまうのを防ぐ。

 順調に生育すれば、一本の木から約二百本のバナナを収穫できる。これを、三年で五回ほど繰り返すことを目指している。八月初旬に成田市の栽培状況を視察した振興公社の中津弘文社長(61)は「順調に生育しているのを見て、期待が高まった」と話した。

 約四千人が住む広野町では、震災と東京電力福島第一原発事故の後、急激に農業人口が減少している。町によると、震災前、常に何らかの作物を作っていた農家は三百三十戸あったが、震災後は百八戸にまで減った。作付面積そのものは維持しているものの、高齢化は否めず、後継者不足も深刻だ。

 そこで、新たな作物として熱い視線を注がれているのが「寒冷地バナナ」。栽培に込める思いを、中津さんはこう語る。

 「町として、農業は基幹産業として残していかなければいけない。それも、利益が確保できて、ビジネスとして魅力がある産業にしなければ。市場をしっかりリサーチし、販路を確保したい。将来は農業法人をつくり、若い人が社員として、栽培に加わることができればいい」 (福島特別支局長)

 

この記事を印刷する

PR情報