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【東京新聞フォーラム】

「歌舞伎にすと入門」 “隠れたテーマ”も観劇の醍醐味

「連獅子」の衣裳の着付け実演も。左端が海老沢さん=東京都墨田区の江戸東京博物館で

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 十五日に東京都墨田区の江戸東京博物館で開かれた東京新聞フォーラム「歌舞伎にすと入門」(東京新聞主催、江戸東京博物館後援、演劇出版社協賛)。本欄連載「幕の内外」をまとめた本「歌舞伎にすと入門」(東京新聞出版部)の著者辻和子さんが約四百人の観客に、歌舞伎をより深く楽しむための見方を伝授した。歌舞伎衣裳(いしょう)を手掛ける「松竹衣裳」常務の海老沢孝裕さんも衣裳にまつわる舞台裏のこぼれ話を披露。観客は興味津々に聞き入っていた。 (藤英樹、田中冴子)

 会場には下座音楽が流れ、黒子が拍子柝(ひょうしぎ)を打ち鳴らして開幕を知らせた。黒子が被(かぶ)りを取ると、何と辻さん。意表を突く登場に会場が沸き、第一部が始まった。

 辻さんはまず、「歌舞伎を見るのに一番大切なことは、登場人物の設定と場面の状況を知ること」と語った。自作のイラストを投影して例に引いたのが三大狂言の一つ「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」。言わずと知れたあだ討ちの話だが、狂言では吉良上野介を高師直(こうのもろのお)、浅野内匠頭を塩冶(えんや)判官、大石内蔵助を大星由良之助と仮名に変えている。「江戸幕府を憚(はばか)り、どれも『太平記』から持ってきた名前ですが、師直の高は、高家の吉良というようにそれぞれ関連があります」

黒子姿で講演する辻さん

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 辻さんによれば「この狂言の隠れたテーマは“横恋慕”と“タイミングの悪さ”」。桃井若狭之助との一件で内心は不満を残した師直が、判官の妻で美人の顔世に横恋慕したが拒絶された悪いタイミングで、矛先を桃井からおっとり型の判官に向け、刃傷が起きる。「あだ討ち話一辺倒ではない。人間の感情や人生の真実も見て」

 さらに「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」「義経千本桜」などの登場人物も例に引き「やつし」(高貴な人が卑しい身分に変身すること)や「荒事」(江戸の剛直な演技)、「和事」(上方の柔弱な演技)など歌舞伎の醍醐味(だいごみ)を分かりやすく解説した。

 第二部は、辻さんと海老沢さんの対談に。舞台には「助六〜」の揚巻、意休や「三番叟(さんばそう)」の豪華な衣裳がずらりと並べられ、海老沢さんが帯や腰巻きなど小物について、役者とのエピソードも交えながら説明した。

 「照明の強さで色合いが変わる衣裳選びは役者の年齢や性格などを事前に熟知したうえで進めます。時間に追われる中、役者の難しい注文をどうさばき、納得してもらうか」と苦労も語った。

 この後、「普段は三分間で着せる」という「連獅子」の衣裳の着付けを舞台で実演。複雑な手順を手際良く進めていく様子に会場から感嘆の声が漏れた。

希望者多数により抽選で選ばれた観客は満員、和服姿も目立った

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 東京都世田谷区から来た女性(46)は「見るポイントを分かりやすく教えてもらいとても参考になった」、和服姿の男性(34)は「裏方さんの話は初めて。舞台を見るだけでは分からないことが聞けて面白かった」と話した。終了後、辻さんの本のサイン会には長い行列ができた。

 

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