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【東京新聞フォーラム】

「日本語(ことば)が未来を拓く」 パネル討論

 東京新聞フォーラム、「日本語(ことば)が未来を拓(ひら)く」が3月8日、東京都千代田区内幸町のプレスセンターホールで開かれた。

 「辞書引き学習法」を開発した深谷圭助・中部大学准教授が「新しいことばの教え方 辞書引き学習」をテーマに基調講演したあと、深谷准教授を交え、翻訳家で法政大学教授の金原瑞人氏と作家の川上未映子氏の3人のパネリストが、山田哲夫・東京新聞論説顧問の司会で意見を交換した。生活を豊かにするうえで「ことば」がいかに重要かが強調され、約300人で満席の聴衆は熱心に耳を傾けていた。

深谷圭助さん(中部大学准教授) 1965年愛知県生まれ。愛知教育大学卒業。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了。教育学博士。小学校教諭時代、付箋を活用した「辞書引き学習法」を開発する。

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 山田論説顧問 最近「新聞が消える日」とか、活字離れが起こっているという話を聞きますが、学習指導要領が変わり、新聞が学校の教材に使われます。まず、今の新聞に対する苦言、提言をお願いします。

 金原さん まず文体は十五年古いです。あと、内容からして横書きのほうが読みやすい。新聞が持っている堅苦しさが、若者と乖離(かいり)しています。それから、遊び感覚も欲しいかな。

 川上さん 新聞は、求められる内容が小説や詩やエッセーともともと違います。おもしろさの質の問題です。新聞が何もかもクリエーティビティー(創造性)に富んで、刺激的である必要は全くないと思います。ただ、そこにしかないものに出合えるというのは、どのレベルでも、どのクオリティーでも絶対に必要です。

 深谷さん それぞれ新聞の個性を出して、独自の見方でニュースを分析したり、トップのニュースを持ってきたり、ニュースを読み解いていく独自性を大事にしてほしいと思います。

 山田論説顧問 グローバル化時代、ネットの時代ということで、若者の「読書離れ」と「活字離れ」という問題があるのでしょうか。

 金原さん 「読書離れ」という言葉は、既に団塊の世代で言われていて、それは一つの大きな方向性として、しょうがない。漫画、アニメ、ゲーム、音楽など、娯楽をどこに費やすか細分化されて、読書離れが進むのは当然です。若い人たちがパソコンや携帯というツールで書くことで、コミュニケーションをとる方法が身についてきたというのはとても大きい。新しい道具が若いプロの作家を生んでいます。

 深谷さん 古典は、基本的にかなりバイアスがかかっているわけですから、きちんと慎重に位置づけを与えて読んでいかなくてはまずいと思います。

川上未映子さん(作家) 1976年大阪府生まれ。2008年「乳と卵」で第138回芥川賞を受賞。09年には第14回中原中也賞受賞。10年「ヘヴン」で第60回芸術選奨文部科学大臣新人賞。

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 川上さん 娯楽としての読書では、鴎外を読め、漱石を読めと言ってもあまり必要ないし、動かないと思います。

 山田論説顧問 グローバル化時代の要請でしょうか、小学校で英語教育が始まります。英語が世界共通語になって、日本語は滅びてしまうのかという心配と、まず、日本語をちゃんと教えてから英語だという議論があります。

 金原さん 外国語は集中的にやるのが一番上達が早いわけです。小学校で一週間に一、二回英語を教えても、ほとんど身につかない。

 川上さん 英語がその人にとって本当に必要かどうかが大きくて、日本で生まれてずっと過ごして死んでいくなら、普通に考えて要らないですよね。

 深谷さん 今度、五年生や六年生の授業で英語が入りますが、週に一時間ぐらい、英語をしゃべれない小学校の先生が教えても何の役にも立たないです。学校教育だけで何とかしようというのは無理だと思います。

 金原さん 今は情報がネットから英語で入ってきます。自分が世界に何か発信したい場合、英語が書けるかというのが大きくて、しゃべれたり、読めたりする必要はないのかもしれない。

 川上さん 読書でも何でも、行間を読むのは「身体知」です。しゃべることはもちろん大事ですが、書き言葉は、本当のコミュニケーションの中にもう一度帰ってくると思います。

 深谷さん 今は、中小企業でも中国とか海外に工場を持ったりする時代ですから、必要に応じて、腹をくくって外国語を学ぶようになると思います。

金原瑞人さん(法政大学教授、翻訳家) 1954年岡山市生まれ。訳書に「豚の死なない日」「青空のむこう」「ブラッカムの爆撃機」など。エッセーに「翻訳のさじかげん」などがある。

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 山田論説顧問 ネット時代で気付かされたのは、新聞記者も本当の力をつけないといけない。本物が求められている時代ということですね。

 川上さん エリートはどこの分野でも絶対必要ですが、私たちは受験の価値観から外れたところでアドバイスすることはできます。

 深谷さん 最近、日本のリーダーは失言や言葉が軽くて、言葉に対する理解が乏しい。まず、きちんと辞書を引いて、言葉をちゃんと使ってほしいと思います。

 山田論説顧問 故・大野晋(すすむ)さんは「言葉は文明についてくる。英語の時代に、日本の文化、文明が高ければ、日本語は滅びない」と言っていました。言葉を学び、語彙(ごい)を豊富にする大切さについて、一言ずつお願いします。

 金原さん 言葉にそんなに力を入れるメリットがあるかと言われると、そうでもない。自分にとってそれが音楽である人、スポーツである人、アートである人もいます。できればそちらのほうの配慮が欲しいと思います。

 川上さん 読むのに値する本かどうかは自分で判断すればいい。主導権はこちら側にあるということです。学校という制度や機関によらなくても、人間と人間で一つ言葉があったら、それを教えられる何かができればいいと思います。

 深谷さん 今、公立図書館の本の貸出量はものすごく増えています。学校教育がだめになっても、パブリックな図書館が充実して、本を読む人がたくさん出てくれば、おもしろい日本人が育つのではないかという期待を持っています。そういう事実をもっとアピールして、活字文化をみんなで考えていく必要があると思います。

 山田論説顧問 新聞も頑張りますので、よろしくお願いします。

「新しい道具」可能性 山田哲夫・東京新聞論説顧問

 ワープロからパソコン、ケータイといった「新しい道具」の普及が、若く新しい作家たちを誕生させている。それによって、日本語は衰退していくのではなく、より豊かに、より強靱(きょうじん)になっていくことを教えられたシンポジウムでした。女優でミュージシャン、全く新しい文体を持ったかにみえる若き芥川賞作家の川上未映子さんも技術的には古典に学んでいることを知って納得させられもしました。辞書引き学習の子どもに希望が持てます。未来を切り拓(ひら)くのは活発な精神と豊かな日本語。未来のために新聞の責任と役割についても深く考えさせられました。

 

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