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【東京新聞フォーラム】

「夏山の魅力と安心登山」

 登山家の田部井淳子さんらを招いた東京新聞フォーラム「夏山の魅力と安心登山」が六月二十一日、東京都墨田区の江戸東京博物館で開かれた。田部井さんが「夏山の魅力と健康法」をテーマに基調講演をした。続いて、永田秀樹・東京新聞岳人別冊編集長の司会で、田部井さんと、元警視庁山岳救助隊副隊長の金邦夫氏、山岳フリーライターの柏澄子氏が「初めての安心登山のすすめ」をテーマに話した。三人は楽しく山登りするには、危険を避けるための事前の準備、心構えが大切なことを、ユーモアを交えて紹介し、満席の聴衆は熱心に聴き入っていた。

【主催者あいさつ】仙石誠・東京新聞代表

 東京と山は関係ないと思われますが、東京都にも、青梅警察署をはじめ3署に警視庁の山岳救助隊があります。休日には、高尾山や三頭山(みとうさん)などにたくさんの方が登られます。

 東京も多くの登山人口を抱えています。自然を相手のレジャーということで、気をつけて登っていただきたい。私どもも、これからも紙面で山や登山を取り上げていきたいと思います。

登山の魅力を語る講演や討論に聴き入る人たち=川柳晶寛撮影

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【基調講演】「余裕ある計画大切」田部井 淳子さん

 いよいよ夏山の本番です。私も六月に入って、上高地の徳沢を歩いてきましたが、ニリンソウが森の中一面、真っ白くなるほど咲いています。これからは山の花が楽しめる季節です。秋田駒ではチングルマ、福島の磐梯(ばんだい)山ではイワカガミの花が咲き始めます。

 東日本大震災で避難されている人たちとも裏磐梯を歩いてきました。最初は表情もこわばっていましたが、一緒におにぎりを食べ、別れるときには、顔のつやまでよくなって、明るくなっていました。「田部井さんがつくってくれたおにぎりがおいしかった」と、何と私にお土産まで買ってくれたんです。

 山の計画は、余裕のある計画が大事な要素です。余裕があれば、山の花も風景も楽しめ、写真も撮れて、夏山はとても楽しいものになります。ただ、大体三千メートルを超えると高山病の症状が出てきます。そのときには、ゆっくり深呼吸をするだけで、胸が開いて酸素がいっぱい入ってきます。また、耳の軟骨あたりをマッサージすると、緊張感がとれて気分がよくなりますし、耳の下のリンパを流すように意識すると、目も頭もすっきりします。ふだんの生活で、歩いて疲れたり、立っている時間が長いときは、アキレス腱(けん)をポンピングしたり、ひざの後ろのリンパをマッサージすると、血流がよくなり疲れがとれます。

 毎朝、布団の中で足を伸ばしてストレッチをする、リンパを刺激する、テレビを見ながらスクワットをする、電車を待ちながらつま先立ちをする。「ながら」のストレッチを習慣づけていくだけでもかなり違ってきます。自分の体を自分で管理することができれば、楽しい山歩きができます。

金 邦夫さん(元警視庁山岳救助隊副隊長) こん・くにお 山形県生まれ。1966年警視庁入庁。94年、青梅署山岳救助隊副隊長として奥多摩に勤務。人命救助などの功績で警察功労賞、警視総監賞などを受賞。著書に「金副隊長の山岳救助隊日誌」など。

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【パネル討論】備えて楽しく登ろう

 永田秀樹・岳人別冊編集長 金さん、柏さん、最初、どのようにして山と出会われたのか、自己紹介を兼ねてお話を聞かせてください。

 金邦夫さん 私は山形県の小国町、飯豊(いいで)連峰の登山基地で生まれました。高校二年のとき家人に書き置きして、無謀にも単独で四日間、飯豊連峰、朝日連峰を縦走しました。以来五十年近く山に取りつかれたままです。警視庁入庁後も、山とレスキューに情熱を燃やし、三年前定年退職しましたが、今も週四日勤務の嘱託として青梅署で山岳救助をしています。嘱託はあと一年半ほどできます。ぜひそれを全うしようと六十四歳、頑張っています。

 柏澄子さん 人類で初めて八千メートルのアンナプルナ峰に登ったフランス人登山家の著書を読んで感動し、雲をつく峰々を日々夢想する中学時代を経て、高校、大学と山岳部に入り、今は登山をフレームにして人々の生きざまに触れさせていただくライターの仕事を中心に、登山ガイドの仕事もしています。

 永田編集長 登山の世界では、中高年登山ブームがあり、今はファッショナブルなウエアに身を包んだ山ガールと呼ばれる若い女性の登山者が増えています。

 田部井淳子さん 若い女性が山に行き、すばらしい風景に触れて環境に関心を持つ。これは次世代の子どもたちにつながりますから、山ガールの人口の多さは喜ばしいです。山ガールたちはおしゃれで生き生きとして、とてもきれいです。しかも、勉強熱心で学習能力や向上心に富んでいるので、山ガール、まだまだ続きます。

田部井 淳子さん(登山家) たべい・じゅんこ 福島県生まれ。昭和女子大英米文学科卒。1975年、女性では世界で初めて、世界最高峰エベレスト8848メートルの登頂に成功。92年、女性世界初の7大陸最高峰登頂者となる。著書に「田部井淳子のはじめる!山ガール」など。

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 柏さん ヨガやランニングのブームで体を動かす爽快感を知った女性が、自然の中で体を動かしたらもっと爽快だろうと山に向かうのは不思議でも何でもなく、ごく自然だと思います。山ガールの学ぶ意識の高さについては田部井さんも言われました。彼女たちが日ごろ子育てや仕事で培った判断力、思考力を登山に生かしている姿を見て、反対に私が勉強させてもらうことも多いです。

 金さん 道に迷ったと救助要請があり、行ってみたら、何とスカートをはいた山ガール。美人でした。「これが山ガールか」と初遭遇に感動して、声をかけながら下までおろしました。

 永田編集長 中高年登山ブームに山ガールブーム。登山におけるブームをどうお考えですか。

 田部井さん 私は、自分の若いころのように厳しい訓練を重ねろというつもりはありません。初心者こそ最初はツアーでいい。ケーブルでいきなり千二百メートルぐらいまで上がって、大自然のすばらしさを満喫してください。それによって、あの山へ行きたい、この山へ行きたいと、自分で計画して登山する意欲がわいてくると思うのです。

 柏さん お金を払ってガイド登山、ツアー登山に来たら、必ず頂上に連れていってもらえるとか、早急に答えを求め過ぎているように感じるときもあります。登山は、技術や判断力を身につけるのにものすごく地道な積み重ねを必要とし、どんどんステップアップしていきたくても、階段を一つ下がらなければいけないときがあることも意識していただければと思います。

 金さん 青梅署管轄の奥多摩では去年八人の登山者が死亡しました。登山はミスをすると死ぬ厳しいスポーツです。このことを皆さん肝に銘じ、同時に厳しいスポーツをしていることにプライドを持ってください。柏さんのステップアップ登山の講座できちんと勉強するなど、山をなめてはいけません。

柏 澄子さん(山岳フリーライター) かしわ・すみこ 千葉県生まれ。専門は登山と医療、ヒマラヤ文化圏など。独協大学社会人講座や、登山用品メーカー主催の女性登山者向け講習会などで、講師や登山ガイドを務める。著書に「ドキュメント山の突然死」など。

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 永田編集長 安全な登山へのアドバイスを。

 金さん 中高年は、気持ちは上昇志向、体力は下降線。このギャップを意識してください。私はあと一年半、人を背負える体でいたいので、週一回、ジムで筋トレをしています。

 田部井さん 謙虚に己を知り、自分の体の中の仕組みをちゃんと考えて、ふだんからリズムを持った生活をすることが安全登山につながります。己の限界がわかれば登山計画も無理のないものになります。

 柏さん 山の突然死は、心臓、脳、いずれかが原因で起こりますから、結局は、日ごろいかに規則正しい生活をするかにかかっています。また、登山の携行食はアルファ米や乾燥食品など軽いものになりがちですが、カロリー不足は、低温、濡(ぬ)れ、風とともに低体温症の原因とされていますので、注意する必要があります。

 田部井さん 私は「たべい」ですから、山でも食べ物が楽しみです。ただ、カロリーがあっておいしいものは重い。それを背負える体力を自分につけて登ってほしいですね。

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【コーディネーターまとめ】「老若問わない生涯スポーツ」永田秀樹・東京新聞岳人別冊編集長

 中高年登山ブームに続き、若い女性たちも山歩きを楽しみ始めました。登山には日常生活の疲れを吹き飛ばし、心身ともにリフレッシュする魅力があるのだと思います。パネリストの皆さんからは、日頃から自然に親しみ健康管理に注意すれば、山歩きは若者から中高年までが楽しめる生涯スポーツであることを、熱く語ってもらいました。

 田部井さんは、磐梯山に一緒に登った東日本大震災の被災者の方たちが山中で明るい笑顔に変わり、元気とパワーをいただいたと話しています。

 この夏、あなたも山歩きを始めてみませんか?

 

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