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【東京新聞フォーラム】

「日中韓博物館事情−都市博物館で楽しく学ぶ」

 東京新聞と江戸東京博物館は11月16日、東京都墨田区横網の同博物館で、東京新聞フォーラム「日中韓博物館事情 都市博物館で楽しく学ぶ」を開催した。韓国・ソウル歴史博物館、中国・首都博物館(北京)、瀋陽故宮博物院、それに江戸東京博物館の館長、副館長、研究館員らが参加した。「各館の現状と課題」と「各館の教育普及の取り組み」のテーマで報告があった後のパネル討論では、「市民にどう博物館を楽しんでもらえるか」について活発な意見交換が行われた。

【報告】各館の現状と課題

江里口友子さん

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◆江戸東京博物館事業企画課長 江里口友子(えりぐちゆうこ)さん

 開館十八年の江戸東京博物館は、中心事業の常設展示の経年劣化という課題に直面しています。模型を直しても、すぐ故障するといった具合。建設中の東京スカイツリーとの連携など両国という地域に密着しつつ、子どもから高齢者まで、また外国人に対しても、江戸東京の歴史と文化を楽しく学べる環境を整備し、世界に向けて文化発信基地になることを目指しています。

康泓彬さん

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◆ソウル歴史博物館館長 康泓彬(カンフォンビン)さん

 来年ようやく開館十年のソウル歴史博物館は、人でいえばまだ子ども。展示するまで二、三年かかる博物館はカメのようにのろく、世の中の変化はウサギのように激しい。ソウル歴史博物館は来年五月を目標に定めた三カ年計画で、ほかの博物館との差別化を明確にする再誕生計画を進めています。遠隔地の人にもネットなどで利用してもらえることを考えています。

斉密曇さん

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◆首都博物館副館長 斉密曇(チーミーユイン)さん

 首都博物館は北京の歴史文化の展示、伝承、研究の中心。名実ともに北京の「名刺」になっていると考えています。入館料の無料化も実施しており、二〇一〇年の来館者は百十四万人に達しました。首都博物館は開館三十年を迎えたが、尽きることのない活力と若さに満ちあふれ、近い将来、より高い位置を目指し、発展目標を達成すると確信しています。

楊小東さん

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◆瀋陽故宮博物院副院長研究館員 楊小東(ヤンシャオトン)さん

 中国・清王朝発祥の地で、世界遺産でもある瀋陽故宮博物院は、建物の保全を責務として八十年以上、補修を行っています。スタッフは清時代の兵士の装束を身につけ、院内は清朝にタイムスリップした感覚を味わえます。分かりやすい言葉で伝えることを心掛けていますが、未成年者には無料開放し、大学生、大学院生を含め青少年の教育に力を入れています。

【報告】教育普及の取り組み

新田太郎さん

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◆江戸東京博物館展示事業係長 新田太郎(にったたろう)さん

 開かれた博物館を目指し、市民が展示ガイドをするボランティア制度を実施していますが、二〇一〇年度は二百二十八人の登録がありました。無形文化財の伝承者の育成を目的に、江戸時代の歌舞伎の芝居小屋「中村座」復元模型の前で伝統芸能を実施しています。ワークショップや学芸員実習なども受け入れています。今後は多様な教育普及事業をどうまとまりあるものにするかが課題です。

鄭明兒さん

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◆ソウル歴史博物館教育広報課長 鄭明兒(チョンミョンア)さん

 最近始めた事例を二つ紹介します。経済的貧困者だけでなく、健康上の問題などで文化から疎外されている人たちを対象に、訪問博物館教室を実施しています。児童養育施設や、病院内に設置されている子ども病院学校なども訪ねます。もう一つは青少年に関心をもってもらうインターン制度。文化を楽しみながら生きていく、その土台作りをしたい。

何萌さん

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◆首都博物館開放部副主任 何萌(ハーモン)さん

 博物館として社会的役割を果たすためには、社会に対し広く耳を傾けることが大切だと考えています。館内には来館者利用の意見帳を置き、博物館の利用者を招き、スタッフとの座談会も開いています。人々のニーズがどこにあるかを探り、より多くのアイデアを生み出すためです。すべて無料開放していますが、質を落とさず、楽しみながら学べる環境を提供したい。

韓春艶さん

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◆瀋陽故宮博物院部門主任副研究館員 韓春艶(ハンチュンエン)さん

 子どもが解説者になる「子ども解説員」の育成活動を行っており、瀋陽市内の各校の子ども五百人以上が、瀋陽故宮博物院内で研修・実習に取り組みました。博物館教育は学校教育の延長線上にあり、社会教育の重要な一環であるという考え方。大学、高校、中学、専門学校からも計画的に解説員実習生を受け入れ、解説コンクールなどにも参加しました。

【パネル討論】理解深める「参加」「交流」

 湯川説子・江戸東京博物館展示企画係長(司会) ソウル歴史博物館の青少年インターン制度が学生たちの心をつかんだ秘訣(ひけつ)は何ですか。

 鄭明兒・ソウル歴史博物館教育広報課長 青少年インターン制度を始めたきっかけは、大学入試制度の改革です。大学に入るための手段になってしまうのではないかという懸念もありましたが、時間がたつにつれて、生徒たちがこのプログラムを大変楽しんで、自ら参加してくれるようになりました。博物館に行くといつも温かく迎えてくれる担任の先生のような人がいて、友達にも会える。自分たちの新たなコミュニティーの場として博物館を活用しています。

 湯川さん 首都博物館では、利用者を招いて座談会を開催するとのことですが、提案を受け入れた具体的な事例はありますか。

 何萌・首都博物館開放部副主任 座談会は一回二十人くらいずつ招いています。観光ガイドが利用できる説明文を提供する試みも、座談会を契機に始まっています。

 これ以外にも、当館は来館者といろいろな交流をしています。二〇〇九年の旧正月にはお客さまの個人的なコレクションを博物館に展示するというイベントをしました。翌年には、初めて華僑のコレクションの共同展示を行いました。

 博物館をよりよいものにするため、お年寄りに老眼鏡やつえを用意したり、足の悪い方には車いすを押すお手伝いといったサービスも考えています。

 湯川さん 世界遺産の瀋陽故宮博物院で行われている宮廷儀礼公演は、多くの方に観覧されて、国内外のメディアの注目を集めているとうかがっていますが。

 韓春艶・瀋陽故宮博物院部門主任 宮廷儀礼公演は屋外の広場で八十回ほど行っています。中国の東北地方はとても寒いので、五月一日以降にならないとやりません。五月一日から十月八日までの土日、午前十時から一回三十分、百人規模の専門のパフォーマーたちが演じる、大規模なものです。装束、音楽も専門家と吟味して用意し、視覚的にも大変、鑑賞価値の高いものになっています。

「都市博物館で楽しく学ぶ」について話すパネリスト

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 湯川さん 江戸東京博物館の常設展示室で開催されている伝統芸能について、効果はいかがですか。

 新田太郎・江戸東京博物館展示事業係長 有形の文化財のモノ資料と、無形の文化財の伝統芸能・技能を同じ空間で組み合わせることで、江戸のまちの盛り場のにぎわいさながらの雰囲気づくりができたと感じています。

 湯川さん 子どもたちを対象とした教育普及活動と「博物館で楽しく学ぶ」という点についてはいかがですか。

 鄭さん 小学校課程の教育では、一部を学校の外、例えば博物館で勉強することの重要性が高まっています。学校との連携プログラムをどのように開発していくかを模索しているところです。

 何さん プログラムの内容は各年代に応じてデザインされています。小中学校対象では、京劇の展示スペースを使って、子どもたち自身に演じてもらうことで、京劇の文化に対する理解が深まると好評です。

 北京市も、教育課程のカリキュラムの中で、博物館で実践をするプログラムを設けています。当館も、五百人を上限として博物館に来ることが可能で、お弁当を食べるスペースも用意して、長く博物館にいて、見学をし、楽しむことができるようになっています。

 韓さん 学校と協力をし、写真や映像資料を持って学校に行き、子どもたちに見てもらっています。宮廷の歴史も、物語を話すような形でわかりやすく学んでいけるようにしています。

 新田さん 教育普及に関しては、学校の授業に合わせて年代別に四種類のワークシートの開発計画を立てています。

 楽しみながら学ぶという視点では、歴史を一つの別の国と理解をしてもらうような演出を考えています。当館は体験型の博物館ですので、異文化の交流拠点ととらえて、まるで観光旅行を楽しむような気持ちで歴史に触れていただく、そういった場所づくりをしていくことが、今後の姿ではないかと思います。

 湯川さん 今後も引き続き四館で成果を分かち合うお付き合いを続けていければと思っています。

 

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