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【東京新聞フォーラム】

「都心に“知”のオアシス 日比谷図書文化館オープン」

日比谷図書文化館の夜景=11月23日、東京・日比谷公園で(川柳昌寛撮影)

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 東京新聞と日比谷図書文化館は12月3日、千代田区日比谷公園の同館コンベンションホールで東京新聞フォーラム「都心に“知”のオアシス 日比谷図書文化館オープン」を開催した。都から千代田区に移管された同館の開館記念行事。石川雅己・千代田区長が同館の歴史を興味深く披露し、「団塊世代〜第二の人生を楽しむ」をテーマにジャーナリストの田原総一朗氏が基調講演を行った後、同館館長の若林尚夫氏、女優・脚本家の中江有里氏、コラムニストの泉麻人氏の3人のパネリストが田中哲男・東京新聞編集委員の司会で「図書館の未来と役割」をテーマに、図書館の役割、読書の必要性などについて活発な意見交換を行い、満席の聴衆はメモをとるなど熱心に聴き入っていた。

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【主催者あいさつ】仙石誠・東京新聞代表

 日比谷図書文化館は、東京新聞を製作・発行する日比谷中日ビルの斜め前にあります。いわばお向かいさんです。その改修工事が完成し、十一月四日にオープンしました。図書館と博物館とが一緒になった、新しい図書館のあり方を示す施設です。百年に及ぶ旧日比谷図書館の歴史を引き継ぎ、新しいスタートを切った記念として、フォーラムを開催できますことは大変喜ばしいことです。講師の皆さんの楽しく有意義なお話を伺えるものと期待しております。

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◆「100年の輝く歴史」石川雅己・千代田区長

 半世紀前、貧乏学生だった私は、期末試験やリポートのたびに旧日比谷図書館で本を借り、館内でノートに一生懸命写して勉強しました。本も買えない、コピー機もない時代でした。

 冬の受験期になると、朝早くから若者が並び、席をとるのが大変な状況でした。まさに若い学生の勉強部屋でもあったわけです。日比谷公園というすばらしい場所で、私の青春の一翼を担った図書館でした。

 旧日比谷図書館は、1908年、東京府と東京市という二つの自治体があった時代に、東京市民の熱い思いで東京市立日比谷図書館としてスタートしました。100年の歴史があります。東京都は昭和48(1973)年に港区に都立中央図書館をつくりました。日比谷図書館はいずれ廃館と決まり、本の購入もどんどん縮小されました。

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 岩崎宏美さんの「思秋期」に、「青春は忘れもの 過ぎてから気がつく」という歌詞がありますが、私たちが青春時代に学んだ図書館を、何としても後世に継承することが私たちの使命だと思い、千代田区が東京都から移管を受けたわけです。図書館は、活字文化の拠点です。知のゲートウエー(入り口)ともいわれます。学術交流の拠点でもあります。つまらない公共投資をするよりも、こうした知の財産をしっかりと継承することこそ、私たちに与えられた使命だと思います。

 本や活字は、私たちに見えないものを見せてくれます。読書を通じて新たな気づきを得て、自分自身で新たな価値を積み上げることができます。知の歴史に学び、100年前の東京市民の熱い思いをしっかりと継承し、次代を担う方々に残すことが大切だと思います。

 きょうは、東京新聞のお力添えで、日比谷図書文化館オープニング記念講座を開催させていただきました。きょうの催しで、図書、文化の大切さが参加者の一人一人の心に深く刻まれることを願っています。

【基調講演】「価値ある第二の人生」田原総一朗氏(ジャーナリスト)

基調講演をする田原総一朗氏=戸田泰雅撮影

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 団塊の世代には、まず、自分の人生をゆっくり総括してほしい。団塊の世代は人数が多く、競争が非常に激しい世代でした。就職しても競争は激しかったと思います。

 その人たちが、会社を定年で辞めることになった。定年になった多くの人が、自分は定年まで企業で働くべきではなかったと言っています。人生をかけて一番やりたいことではなかった。しかし、気がついたら四十歳を過ぎていて、それから新たな就職はできなかった。どの会社だってそれなりにはおもしろい。だから、やってきた。そういう連中が定年になって、残りの人生をかけて何をやるかというところなんです。

 画家の横尾忠則さんは、七十歳のときに「隠居宣言」をしました。彼はグラフィックデザイナーとして日本で一番有名だったけれども、七十歳からカネになる仕事は一切しない。本当に描きたい絵を描く。

 私の友人は、本当は絵を描きたかったと、六十三歳で定年になってからも会社の美術部のアトリエに毎日通って、展覧会に入賞する画家になりました。

 ある男は中国語を一生懸命勉強して、中国へ行って、日本語の先生になりました。

 一番多いのはボランティアです。会社に勤めていれば厚生年金や退職金があるし、今は全くただではないボランティアもあります。

 私は滋賀県出身で、年八回、いろんな人を大津や彦根にお呼びして、琵琶湖塾をやっています。もちろん交通費は出ますが、これもボランティアですね。

「日比谷図書文化館オープニング記念講座」を聞く参加者=戸田泰雅撮影

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 ボランティア活動は、探せばいっぱいあります。第一の人生で世の中を十分知っているから、やりたいことはいくらでもある。私は、第二の人生は楽しみではなく、仕事をしてほしいと思う。

 仕事をしないと、ぼけます。社会の出来事に関心がなくなるのです。ボランティアでも何でもいいから社会にかかわりを持って、仕事をしたほうがいい。

 もう一つ、夫婦は仲よくすべきです。たまには手を握ったり、キスぐらいしたほうがいい。

 私の女房はがんで亡くなったんですが、亡くなる一年前は車いすになりました。毎晩、車いすから起こして一緒に風呂へ入った。これは楽しかった。女房も楽しいと言ってくれました。

 もし奥さんやご亭主が亡くなってしまったら、恋人をつくるべきです。とにかく話し合うことがとても大事です。ひとりぼっちにならないことです。話し合うことで積極的になって、ひらめきも出るし、刺激も得る。

 皆さん、どうぞ友達をつくって、話し合っていただきたい。

 たはら そういちろう 滋賀県出身。1964年東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年からフリーに。「朝まで生テレビ!」の司会などテレビジャーナリズムの新境地をひらく。現在、「激論!クロスファイア」出演中。著書に「子育て知らずの孫育て」(東京新聞出版部)など。

中江 有里氏(女優・脚本家) なかえ ゆり 大阪府出身。2002年、「納豆ウドン」でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。著書に「結婚写真」(小学館文庫)など。現在、「週刊ブックレビュー」(NHK−BSプレミアム)の司会を務める。

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【パネル討論】活字文化の新拠点

 田中哲男・東京新聞編集委員(司会) 日比谷図書館は本年十一月四日、都立から今度は千代田区立の日比谷図書文化館として再スタートしました。単なる「図書館」ではなく「図書文化館」です。それは一体どんな施設なのか、その特徴を館長さんから伺いましょう。

 若林尚夫・日比谷図書文化館館長 都立日比谷図書館の移管要請を受け、そのまま区立図書館として引き継ぐことには抵抗がありました。そこで、江戸時代、幕末、近代という歴史の中で大きなウエートを占めてきた地域であることから、その地域特性を踏まえた文化情報の発信機能と図書館機能を一体化させて運用していこうということになり、図書文化館として再スタートしました。

 この経緯から、ここには図書館はもちろん、常設展示室及びトピック的な展示を行う特別展示室、イベントや日比谷カレッジを展開する大、小ホールがあります。また、四階の特別研究室には、内田嘉吉(かきち)が所蔵していた約二万冊の文庫をはじめ、貴重な書籍、資料があります。それらは手にとってご覧になれますし、それらを活用したナイトセミナーも開かれています。

 さらに、ビジネス・パーソンの利用に供するため、平日は夜十時まで開館し、パソコンも自由に使えます。カフェやレストランもあります。図書空間、展示空間、交流空間の三つを融合的に運用して、「文化空間」あるいは「知の拠点」として発展させていきたいと考えています。

 田中編集委員 泉さん、中江さん、ここをごらんになってどんな印象でしたか。

泉 麻人氏(コラムニスト) いずみ あさと 東京都出身。1979年東京ニュース通信社に入社。「週刊TVガイド」などの編集者を経て、84年フリーコラムニストに。雑誌、新聞などを中心にコラムを執筆。近刊は「昭和切手少年」(12月下旬発売)。

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 泉麻人さん(コラムニスト) 内田嘉吉文庫のようにアカデミックかつクラシックな部分もあり、なかなか洗練された雰囲気のライブラリーカフェもあり、温故知新というか、新しいものと古いもの、両者の長所が取り入れられた、いい環境だなと思いました。

 中江有里さん(女優・脚本家) 図書館というと落ちついたイメージですが、こちらは窓が大きくて非常に明るいです。窓のそばや至るところに読むスペースがあるのも実に自由な感じがしました。また、奥に行くに従って本棚の位置が高くなっていて、本が探しやすいし、お部屋も非常に広く感じます。ということで、日比谷図書文化館は全体的にとても気持ちのいい空間です。千代田区民の優先席があって、このためなら私、税金を払って千代田区民になってもいいかなと…。

 田中編集委員 こちらの図書館の蔵書はざっと十七万冊です。図書館の財産は何といっても本です。本は人類の文明、文化の進歩の原動力であり、もし本がなかったら人間の歴史は全く変わっていたと思います。本はいったいわれわれに何をもたらしてくれるのか。本の魅力について、パネリストの皆さんはどうお考えですか。

 中江さん 本は知的冒険の手段だと思います。本を読むことで、友達や家族といった身近なことから、生き方、平和、世界、何でもいいと思うのですが、自分への問いを見つけ、その問いを解きたいと思ってまたその関連の本を読む。本はそうやって知的冒険が広がっていくきっかけになるものだと思います。

 泉さん 僕は再読が好きです。子どものころに読んだものを再読すると、例えば旅をしていて、昔行ったことのある場所にたまたまひょっこり行き当たったような感動がありますし、もちろん前に読んだときとはまるで違った印象を受けることもある。小学生時代に志賀直哉の「小僧の神様」を読んで、トロを食べる場面のイメージしかなかったんだけど、大人になって再読すると人間描写の妙に気付く。そういう発見が面白い。

若林 尚夫氏(日比谷図書文化館館長) わかばやし ひさお 福島県出身。1970年に東京都に入る。その後、千代田区や文京区での勤務を経て、2001年に千代田区教育委員会教育長を歴任。ことしから千代田区立日比谷図書文化館館長に就任。

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 若林さん きっかけづくりは当館の大きなねらいです。当館を利用していただくことによって、自身の興味の方向性に風穴があくというか、こんなことも調べてみたい、学んでみたいと新たな興味が広がっていく。特に展示情報はその大きな一助となるものとわれわれは位置づけています。

 田中編集委員 今、残念なことに本離れがいわれていますが…。ちなみに中江さんは年に三百冊お読みになるそうですね。

 中江さん 「この本はすばらしいから読まなければならない」と構えるのではなくて、「この本が好きだから読もう」でいいと思います。読む冊数は、確かに多ければ多いほど集中力とか本を読むための筋肉がついて、さらに多く読めるようになっていくのですが、読んだ内容が本当に自分の身につき、そこから自分の知的世界が広がっていくような読み方であれば、月一冊でも構わないと思います。

 田中編集委員 泉さん、電子書籍と読書についてはいかがですか。

 泉さん 今は刺激的なメディアがたくさんあります。特に電子ゲームの人間の本能に訴える刺激は、大人にとっても非常に強いと思います。ただ、ロールプレーイングゲーム(参加者が各自に割り当てられたキャラクターを操作し、冒険、探索など与えられた試練を乗り越え目的を達成するゲーム)の場合、一人対物語の中の登場人物たちということで、膨大な量のせりふ、会話、シナリオを読みます。これはメディアのスタイルが違っているだけで、根本のところは本を読む行為とさほど変わらないように思います。

 電子装置を通じて読書に似た行為をしている人はある程度の数がいて、彼らが今後、電子書籍から読書に入ってくることはあり得ると思います。団塊世代は、ロックとか新しい文化を取り入れてきた世代だから、案外IT(情報技術)も受け入れられるのではないでしょうか。

公園などを眺めながら読書できる窓際の閲覧スペース=淡路久喜撮影

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 田中編集委員 まとめとして一言ずつお願いします。

 中江さん こちらのスタッフの方々はとても丁寧に案内してくださいます。図書館を使いなれていなくて、入るのに緊張するという方にも安心しておいでいただけます。また、テーマを掲げ、それに関する本を集めて展示されていたのは、導入として非常にわかりやすかったです。せっかくの豊かな蔵書なので、図書館がもっと身近になって、もっと利用しやすくなるよう工夫を続けていってほしいと思います。

 泉さん 戦前から昭和二十年代にかけての映画では、まず日比谷公園を散策し、次に日比谷公会堂でクラシックのコンサートを鑑賞するというデートシーンがよく登場します。文化の歴史が古くから根づいている地域の個性的な色合いが出せたら、図書館としておもしろくなると思います。

 若林さん 図書文化館という概念はまだまだ発展途上です。われわれも努力しますが、多くの方々に気軽に楽しみながら盛り上げていただく、そしてそのことによってまた新たな可能性が生まれてくる、そうやって概念をつくり込んでいけたらと思います。

 田中編集委員 図書館の役割は知識の提供とともに、活字文化の素晴らしさをいかに伝え、いかに文化や情報を発信していくか、ということでしょう。日比谷図書文化館は今、そんな「知のオアシス」に生まれ変わりました。多くの方に気軽に利用していただき、人生を楽しみ、豊かにするきっかけを見つけてほしいと思います。

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【司会まとめ】「失って知る偉力」田中哲男・東京新聞編集委員

 本を読む人が減っている。月に一冊も読まない成人が40%以上もいるという。読書は労力を要するし、没頭する時間も必要だ。ネット社会に生きる世代に読書は重過ぎるのだろうか。

 決してそうではないと思う。大震災ですべてを失った被災地では食糧供給がひと段落した後、人々は本を切望し、移動図書館が大歓迎されたという。先日横浜で開かれた“図書館グランプリ”ではそんな「いわてを走る移動図書館」が評価され優勝したそうだ。

 活字には深い知識と心を打つ感動、癒やしの力がある。平素はあまり気づいていないが、失って初めて、それがいかに素晴らしいかを被災地の方々が教えてくれた。活字は人が心豊かに生きていく上で決して欠かせない“偉力”だ。それを多くの人に知ってほしいと思う。

 

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