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【東京新聞フォーラム】

「いつまでも健康に〜転倒予防の知恵〜」

「体験から語る転倒と健康づくり」と題して対談をする日体大総合研究所の武藤芳照さん(左)と女優の水谷八重子さん=東京都世田谷区で

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 寝たきりや要介護の原因となる転倒の予防をテーマにした東京新聞フォーラム「いつまでも健康に〜転倒予防の知恵〜」が4日、東京都世田谷区の日本体育大学世田谷キャンパス記念講堂で開催された。第1部は転倒経験のある女優の水谷八重子さんと転倒予防に長く取り組んでいる日体大総合研究所の武藤芳照所長との対談、第2部では東京農業大学の上岡洋晴教授による体操の実技指導・レクチャーが行われ、参加した約400人は楽しく転倒予防の実践を学んだ。

◆主催者あいさつ 東京新聞代表・大島宇一郎

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 今回の東京新聞フォーラムは「転倒予防」をテーマに選びました。寝たきりや要介護につながる転倒事故は誰にでもかかわる問題で、ゲストの水谷八重子さんからは健康づくりの話を、この分野のエキスパートの先生からはさまざまな知恵を教えていただき、みなさまに活用してもらえれば幸いです。

◆対談 女優・水谷八重子さん×日体大総合研究所・武藤芳照さん

 武藤芳照所長 水谷さんは私が理事長を務めている日本転倒予防学会の名誉会員であり、猫好きの仲間でもあります。学生時代にスポーツとのかかわりはありました?

 水谷八重子さん 鉄棒の逆上がりがただ一人できない子でした。

 武藤 役者生活六十年の中で、監督に「転びなさい」と注文される時もありますね。

 水谷 内田吐夢監督の映画「花の吉原百人斬り」(一九六〇年)で、重いカツラを着け、相撲の化粧まわしより厚い帯を身に着けていたので、転倒しても痛くなかった(笑い)。

 武藤 では不注意で転んでけがしたことは?

 水谷 舞台ではけがしたことはありません。人前では気が張っていますから。ただ、人前にいないと気の緩みが違います。以前、車道より少々上がっている歩道でつまずいて転んでしまいました。ひざを打ったんですが、転び慣れていないものでひざを打った後、後ろに飛んで肩も強打し、脱臼しました。妙な方向を向いた肩を自分で打ち付けて戻しました。でも、医者に「元に戻したのはいいけど、軟骨まで傷めてますよ」としかられました。

 武藤 脱臼を自分で整復したのはすごいですね。でも、まさに転倒予防学会の予防川柳にある「つまずいた 昔は恋で いま段差」です。話は変わりますが、転倒予防には水を飲むことも大切です。

 水谷 うちの母(初代水谷八重子)と私は夜中に足がつることがありました。内臓疾患を心配したのですが、水分不足と分かり、水を飲むように心掛けたら注射を打ったかのように足がつらなくなりました。

 武藤 昔の旅館には枕元に「宝水」と呼ばれる水差しがあった。疲れた旅人の足がつるのを防止する知恵です。水不足は、脳梗塞や心筋梗塞の危険もあるといわれます。

東京農業大の上岡洋晴教授(右)の指導で転倒予防の体操をする参加者

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 水谷 転倒予防にバリアフリーの生活はどうでしょうか?

 武藤 バリアフリーの施設にいると、体の機能が下がり、転びやすくなった−という研究報告があります。またいだり、昇ったりしないと人間の体は衰えるんです。

 水谷 確かにそう。今年、芝居で昔の生活を演じたんですが、翌日筋肉がパンパンに張ってしまいました。自分も今やかつての日本人の生活を送っていなかったことに気付きました。

 武藤 昔はぞうきんがけをはじめ、家事で体を使っていましたからね。最近顕著なのは、女性が紫外線の関係で日光を浴びるのを嫌うことも転倒に関係します。日光浴はビタミンD生成に不可欠です。

 水谷 本当に日光を嫌う人は多いですね。

 武藤 アニメ「アルプスの少女ハイジ」で親友のクララが日光を浴び、乳製品をよく食べ、外に出ることが増えたら、車いすから立ち上がれたのは医学的、栄養学的には理にかなっています。もちろん過剰な紫外線を浴びる必要はありません。

 水谷さんにちなみ、転倒予防七カ条をまとめてみました。

 ミ 水を小まめに飲む ズ ずっと前の若さと力あてにせず タ 立って歩く、またぐ、昇って降りる ニ 日光はビタミンDの製造機 ヤ 柔らかな体づくりにストレッチング エ 笑顔がクスリ コ 心豊かな感性を磨く

 水谷さんからも健康づくりのメッセージを。

 水谷 生きてる限り、常に何かを目指していくこと。だから、いろんな人の人生を生きる役者として、体全体の運動器を何から何まで使えるようにしていたいんです。

 <みずたに・やえこ> 東京都出身。1955年、16歳で新派・歌舞伎座で初舞台。以降舞台、ジャズ歌手、映画、テレビ、エッセイストと幅広く活動。73年文化庁芸術選奨最優秀賞、93年都民文化栄誉章。95年、二代目水谷八重子を襲名。2009年旭日小綬章受章。このほど、芸能生活60周年記念CDを発売。

 <むとう・よしてる> 愛知県出身。名古屋大学医学部卒、東京大学大学院教授などを経て2011年東京大理事・副学長。13年日体大総合研究所所長。14年同大保健医療学部教授。3度の五輪で日本水泳チームドクターを務める。日本転倒予防学会理事長。「転倒予防−転ばぬ先の杖と知恵」(岩波書店)など著書多数。

◆実技 東京農業大・上岡洋晴教授

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 「転倒予防のための楽しい運動・いつでも、どこでも、お家(うち)でも!」と題した実技レッスンを上岡洋晴教授=写真=が披露した。まず転ぶ原因として(1)滑る(2)つまずく−がほとんど。そうさせやすくするのが危険因子であり、多くあるが、まとめると病気や薬、運動不足、知識不足などで、運動不足、知識不足は本人の工夫で改善されると強調した。

 参加者にクイズ形式で尋ねた「転倒は前後左右のどれが多いか?」。答えは前方(60%)、左右(20%)、後方(20%)。このうち、左右への転倒は大腿(だいたい)骨骨折という重傷につながりやすいことを自ら実演してみせた。後方の場合、頭を打ち、死亡事故の恐れもあるとした。

ボディーじゃんけん

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 続いて、かかとに一方の足のつま先をつけ、バランスを取る実演を。「目も大切です。そのままで目をつぶると誰でもふらつきが増します。つまり、夜暗いところでは、自分が思う以上にふらついているので、夜トイレに行くときは、フットライトや電気をつけて、転倒を防ぎましょう」。さらに体でグー・チョキ・パーを表すボディーじゃんけんを指導。実際に会場でじゃんけん大会を行った。

 さらに前後左右へのステップを繰り返す運動も指導。最後に美空ひばりさんの「川の流れのように」に合わせて太極拳を取り入れたリズム運動を紹介。「転びそうな時、とっさの一歩が出せることが転倒予防につながる」とアドバイスした。

 <かみおか・ひろはる> 東京大学大学院教育学研究科修了、身体教育医学研究所研究部長などを経て2010年、東京農業大学地域環境科学部教授。日本転倒予防学会理事・編集委員長。NHKEテレ「きょうの健康」に「転倒予防のバランス運動」で出演するなど、高齢者向けの運動指導を続ける。

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