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【東京新聞フォーラム】

「東京からの恩返し〜飲んで福島を元気に〜」

東京新聞フォーラム「東京からの恩返し〜飲んで福島を元気に〜」でパネルディスカッションをする(右から)福島県酒造組合の新城猪之吉会長、東京農大の小泉武夫名誉教授、フリーキャスターの唐橋ユミさん

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 5年前の東日本大震災で大きな打撃を受けたものの、国内外で高い評価を受ける福島県産の日本酒に注目した東京新聞フォーラム「東京からの恩返し〜飲んで福島を元気に〜」(後援・福島県、福島民報社、協力・福島県酒造組合)が16日、東京都千代田区の日本プレスセンターホールで開かれた。醸造学、食文化論で知られる東京農業大名誉教授の小泉武夫さん(72)の「日本酒の噺(はなし)」と題した基調講演に続き、小泉さん、福島県酒造組合会長の新城猪之吉さん(65)と県内の蔵元に育ったフリーキャスターの唐橋ユミさん(41)によるパネルディスカッション「日本酒の魅力−福島の蔵元より」が行われた。福島県内の蔵元の取り組みや日本酒をめぐる秘話と未来に約300人の来場者は興味津々に聞き入っていた。

◆東京新聞・大島宇一郎代表あいさつ

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 東日本大震災から五年がたったのを機に今回、東京新聞フォーラムは福島県の日本酒をテーマに取り上げました。国内外で高い評価を受ける福島の日本酒は地元を代表する特産品の一つと言えます。会場の皆さんも日本酒が大好きな人が多いと思います。ゲストの三人はいずれも日本酒と深く関わってきた方です。本日はいっぱい出てくる日本酒をめぐる知らない話、面白い話をたっぷりお楽しみください。

【基調講演】 「日本酒の噺(はなし)」 東京農業大学名誉教授・小泉武夫さん

 まずは日本酒の歴史です。奈良時代には日本酒は造られていました。でも造り方が違い、みりんのようなものだった、と当時の文献に残っています。

 日本酒は米があって、米麹(こうじ)がなければ造れません。奈良時代の『播磨国風土記』に、神様に供えた蒸したおこわが古くなり、カビが生えたとあります。それを「かびたち」と呼び、次第に「かむたち」「かむち」「かうじ」、そして「こうじ」に変わっていきました。

 ただし、今使用している「こうじ」の字は「麹」ですが、もう一つ「糀」もあります。米の麹ですから「麦」へんはおかしいですね。実は麹は中国から来た漢字で、糀は国字なんです。実際、糀をむしめがねで観察すると、米に花が咲いているように見えるんです。ところが、日本には酒税法があり、税法上は「麹」を使うことになっているんです。ですから、みそやしょうゆを造っている業者の中には「糀」を使うところがあるのです。

小泉武夫さん

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 平安時代の日本酒には天皇が飲まれる「御酒」から庶民が飲む「雑給酒」まで十四種類が造り分けられていました。そして十四種類の酒の中に「水酒」というのがあるのですが、これは「氷酒」のこと、つまり日本酒のオンザロックを平安貴族が楽しんでいたのです。京都に氷室があり、貴族の料理番から依頼があると職人が氷を切り出してきたそうです。

 室町時代に入ると、お坊さんが力を持ち、関西の荘園や檀家(だんか)から納められた米を使って酒造りを始めたのです。このお坊さんたちの造り方が今の酒造りにつながっているのです。それはもろみを薄めないため、アルコール度数が高くなるのです。

 アルコール度数で言うと、醸造酒の中で日本酒が世界で一番高いんです。ウイスキーとかは蒸留酒。日本酒と同じ醸造酒のワインだって12から13%でしょう。もろみをしぼる前の日本最高記録は22・8%です。

 世界に冠たる日本酒を造るためには水が大切。例えば、福島の会津、兵庫の灘、京都の伏見とかに造り酒屋が集まっているのは水が良いからなのです。世界の水の中で日本酒に使う水が最も良質なんです。それは鉄分が少ないからで、これが多いと酒がさびてしまう。日本酒だけでなく日本は水が良いからお茶が緑茶で飲める。日本のお茶を外国でいれて見てください。茶のタンニンと鉄分のせいで黒くなることが多い。

 次に料理に使ってもいい日本酒の話をしましょう。

 「炒(い)り酒」というのがあります。日本酒を土鍋に一升(千八百ミリリットル)入れ、梅干しを一つかみ加える。そこにかつおぶしも一つかみふわっと入れる。そして火をつけ、どんどん加熱し、アルコールを飛ばし、一升を四合(七百二十ミリリットル)まで煮詰め、布でこすと、べっこう色になっている。そこに焼き塩を入れ塩梅(あんばい)を見る。

 この炒り酒でスズキ、タイなど白身魚の刺し身を食べても色がつかない。しょうゆでは色がつく。江戸時代の人は粋ですね。炒り酒にはうまみ、甘み、出汁(だし)だけでなく、梅干しの酸味で生臭さも消える。誰でもできるのでやってみてください。

 ところで、世界の酒の中で燗(かん)をするのは日本酒だけです。古くは三月三日の桃の節句から九月九日の菊の節句まではそのまま常温で飲み、それ以外の時期は燗酒だった。

 飲み方もさまざまですが、日本酒はおいしいので、昔は大酒飲みが多かった。江戸時代、実際にあったと複数の記述が残っているのは、今の千住に住んでいたお金持ちの還暦祝いの酒飲み大会で、八升七合を飲み優勝した男がいます。すごいですね。みなさん、まねしちゃだめですよ。

 こんな笑い話もあります。昔は造り酒屋が水で薄め、それを酒問屋、小売り、料理屋がさらに薄めると「むらさめ」と呼ばれた酒となった。その名の由来は外で飲んで、村に帰るまでに酔いがさめちゃうので「村さめ」。一方、日本酒には精神修養のための「酒道」というのがあって足利義満も取り組んでいた。

 まだまだ話は尽きませんが、みなさん、ぜひ日本酒を飲んでください。

 <こいずみ・たけお> 1943(昭和18)年、福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学農学部醸造学科卒業。農学博士。専攻は醸造学、発酵学、食文化論。現在、東京農業大名誉教授。著書に「酒の話」(講談社現代新書)、「発酵」(中公新書)など単著138冊、共著24冊。2013年に県外在住功労者として福島県知事賞を受賞。各地の農政アドバイザーや食文化関係団体の役員も多く務めている。

【パネルディスカッション】 「日本酒の魅力−福島の蔵元より」

唐橋ユミさん

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 唐橋ユミさん 福島の日本酒の評価が上がっている理由は何でしょう?

 小泉武夫さん 急に上がったわけではないんです。酵母を選び、酒造組合の団結もあります。普通は蔵元同士が蔵を見せることはないが、勉強会を重ね、互いに腕を磨いてきたのも大きい。あとは福島の気候と、風土、そしてミネラル豊富な最高の伏流水。底冷えするような寒さも寒造りに向いている。経営者も若返り、酒への感覚が以前とまったく違ってきた。

 新城猪之吉さん 福島県は大きな県で蔵元も多いが、みんな地元の酒を飲んでいた。かつて東京に売り込みに行ったら「福島は駄酒、(料理に使う)煮酒なら買う」とまで言われた。いろいろ考えたが、同じ酒の産地、新潟県には杜氏(とうじ)を育てる高校があったが、福島にはなかった。「これではいかん」と二十五年前、職業訓練校として「清酒アカデミー」を立ち上げたんです。この春、二十五期生が卒業します。アカデミーで学んだ若者は仲良くなり、仲間に「うまくねえぞ」と本音で語れるようになった。新潟を鑑評会で超えられたのは福島の酒が本物だということです。

 唐橋 震災から五年、まだ風評被害は残っていますね?

 新城 震災後、売り上げは80%に落ちた。外国にも「福島の酒はいらない」と言われ、国内でも「福島は白血病が増えているんでしょ」とデマが広がっている。全体的に福島の日本酒はまだ立ち戻れていないと思います。

 唐橋 私は「宴会の最初には日本酒で乾杯する、という流れがもっと広がるといいね」といつも話しています。酒造りに関わる女性も増えました。

 新城 杜氏は酒造りの親分、責任者ですが、女性で杜氏の資格を持つのはまだ福島県内で一人です。ただ、蔵に入っている女性は多く、女性が造った酒は評判になりますね。

 小泉 女性は利き酒能力が高いと思う。最近は日本酒専門のバーに出入りする女性も増えてきた。

 新城 女性は冷静だから利き酒にいいんです。男はつい飲みすぎてしまう。

 唐橋 ワイングラスで飲むのもいいですね。

 新城 ワイングラスだと何が違うと言えば、大吟醸の場合、グラスに鼻が近づき、強く豊かな香りを楽しめる。熱燗(あつかん)などの燗酒はぐい飲みより、浅く広い盃(さかずき)が向いている。

 唐橋 小泉さんは日本酒の肴(さかな)は何がお好きですか?

 小泉 刺し身が大好きです。やはり和食。煮物も好きです。会津に行くとニシンの山椒(さんしょう)漬けですね。

新城猪之吉さん

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 新城 あれは最高ですね。ノルウェーに燗酒を売り込もうと行ったとき、現地でニシンの酢漬けが人気なので、会津の身欠きニシンをセールスしたら、レストランのおやじが感動して自分で食ってしまった。

 小泉 生ハムは日本酒に合うんです。卵焼きみたいなものもいいですね。

 新城 二十五年前から「ニューヨークでも飲まれているから日本酒っておしゃれじゃん」と若者に言ってほしくて輸出に取り組んだが、そう簡単にはいかなかった。だけど、どんな料理にでも合うのが日本酒の強み。イタリアのミラノ万博に東京の有名イタリア料理店のシェフと一緒に行き、イタリアンと日本酒のマッチングをやったら、現地の人たちに「こんなおいしい組み合わせを食べたのは初めて」と驚かれたこともあった。

 小泉 なぜ、日本酒が海外でウケているか。海外でも人気の「和食」の中心は日本酒だからです。また、今の日本酒は辛口化が進み、油料理に負けない。この五十年で日本人の油の消費量は三・五倍にもなっている。

 新城 日本酒がマッチングという意味で苦手なのはスパイスを使った料理ではないか。でも熟成した日本酒や古酒は独特な風味があってスパイスに負けない。だから開封していない古い日本酒があったら大切にしていつか風味の変化を楽しむのも良いでしょう。ただし、開封しないで日光、蛍光灯、温度変化は避けてください。家庭用のワインセラーをお持ちの方はまずワインを取り出して代わりに日本酒を入れてください(笑い)。

 唐橋 私は日本酒をお風呂に入れています。

 小泉 実は酒かすもいいんです。アルコール度数も6、7%はあり、食べると酔います。栄養価も高く、江戸時代には手で握れるから「手握り酒」とか、魚の三枚おろしで残る骨と酒を造った後に残る酒かすをもじって「酒骨」とも呼ばれていた。なかなか粋ですね。酒かすを買うなら良い酒の福島ものが一番です。

 唐橋 みそ汁にちょっと酒かすを入れるとおいしいですよ。

 新城 一番合うのは酒かすに漬けたチーズかな。めっちゃ合います。チーズなどの乳酸発酵のものは合いますね。熱燗、ぬる燗どちらにもぴったり。

 小泉 ウインナーを酒かすに一週間漬けてフライパンで焼くと、すごくうまい。

 唐橋 若い世代が福島の蔵元を受け継いでいますが。

 小泉 福島に限らず日本全体で考えたいのは、日本酒がどんどん高価になっている。四合瓶で二万円とか。一部の裕福な人しか飲めない。福島の酒は安く、うまく飲める。あくまで庶民の酒ですよ。

 唐橋 最後にメッセージを。

 新城 一番おいしくて安全な福島の日本酒を飲んでください。そして乾杯は日本酒で。国酒ですから。

 小泉 一度の人生ですからしっかり日本酒を飲んでください。それもなるべく福島の日本酒を。大切な糀(こうじ)菌は日本にしかない「国菌」です。

 唐橋 それでは、いっぱい日本酒の話を聞いて寄り道される方はお気をつけて! 

 <からはし・ゆみ> 1974(昭和49)年、福島県生まれ。実家は福島県喜多方市の「ほまれ酒造」。実践女子大学文学部英文学科卒業。テレビユー福島アナウンサーを経て、現在フリーキャスター。TBS「サンデーモーニング」、テレビ東京「センニュウ感」などに出演中。趣味は相撲観戦、料理。利き酒師の資格も持つ。

 <しんじょう・いのきち> 1950(昭和25)年、福島県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。79年に実家の「末廣酒造」(福島県会津若松市)に入社。2006年、七代目猪之吉を襲名。酒造りは「うまい酒、飲む人の心に染みる地酒を造りたい」との一心で取り組む。現在、福島県酒造組合会長。日本酒造組合中央会理事も務める。

◆金賞受賞数 新酒、3年連続日本一

 2011年3月の東日本大震災で福島県内の蔵元は甚大な被害を受けたほか、原発事故による風評被害はいまだにぬぐえない。

 だが、福島県酒造組合はじめ、福島の日本酒を守る関係者は事態を受け、さまざまな取り組みを懸命に続けている。蔵元が仕入れる福島県産の米、醸造に使用する仕込み水などは徹底した放射能検査が実施されている。県も「日本酒の安全・安心」をアピールするため米の検査を展開。各蔵元も放射能検出の下限値10ベクレル/キログラム以下の検査を通じ、すべて「不検出」の商品を出荷、消費者の信頼を支えている。

 今年2月23日に都内で開かれた平成27年度福島県産新酒発表会の席上、酒造組合会長の新城さんは「酒の質は年々向上しているのに対し、売り上げが下がるというジレンマがある」と話した。さらに風評被害は国内にとどまらず、「輸出の際、相手の国からラベルの『福島』の表記を消してほしいという声もある」という切実な問題が残っていることも強調された。

 しかし、蔵元の努力は実りつつある。一部の蔵元は山形県内に移り、長年愛された酒造りを再開するなど、依然厳しい状況はあるものの、国際的な酒のコンクールで福島県産の日本酒がチャンピオンに輝いたほか、日本酒の「全国新酒鑑評会」で3年連続で福島県が金賞受賞数日本一の評価を受けた。

 昨年夏には多くの蔵元が参加して都内で「ふくしま美酒体験in渋谷」と題したイベントを開催。秋にはイタリア・ミラノ、台湾で福島の日本酒を紹介するイベントを積極的に展開。国内外での福島県産日本酒の受賞歴は、若い勉強熱心な日本酒の造り手が成長し、福島県産日本酒のレベルを高めている裏付けとも言える。

 今回発表された酒造組合の「安全・安心」宣言の結びを紹介する。

 今日も安全・安心。

 今日もおいしい。

 みんなの日本酒。

 好きなんです 福島の酒。

◆地元紙が号外を配布

フォーラム終了後に配られた、福島民報と本紙の連名の号外

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 フォーラム会場では、地元紙の福島民報社がこの日の模様を取材し、同社の印刷機能を備えた車両を使って号外を発行した。フォーラム終了後、「福島の酒 魅力発信」との見出しが躍るカラーの号外を受け取った来場者たちは「今聞いたばかりの話が紙面になって驚きです」と早速読み込んでいた。

◆「酒蔵巡りスタンプラリー」

 福島県では「福が満開、福のしま。」と題した福島県観光キャンペーン2016の特別企画「ふくしま酒蔵巡りスタンプラリー」を十一月六日まで実施している。

 全国新酒鑑評会で三年連続金賞受賞数日本一に輝くなど全国的に注目度の高い福島県の四十九の酒蔵を巡る新規企画。酒蔵訪問で1ポイント、見学や購入で3ポイント、限定イベントへの参加で5ポイントがたまるポイントラリーで、集めたポイントに応じて旅館宿泊券や県産品などが抽選で八百人に当たる。

 全酒蔵を巡ると、もれなくオリジナル升をプレゼント。ガイドブックは参加酒蔵や県内の道の駅、観光案内所などで配布中。詳しくは「ふくしま酒蔵巡り」で検索を。

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