東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 群馬 > 記事一覧 > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【群馬】

<志尾睦子のそふとフォーカス> (18)人間万事塞翁が馬

シネマテークたかさきには是枝監督のサインが全部で四つ。映画「海よりもまだ深く」に添えたサイン(画面下側)が直近のもの

写真

 先日うれしいニュースが届いた。是枝裕和監督が『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞となるパルムドールを受賞したのだ。日本人としては二十一年ぶりというから随分と時がたっていたんだなと思う。

 ちなみに前回の日本人受賞者は今村昌平監督で、『うなぎ』での受賞だった。当時の私は映画のえの字も知らず、カンヌって何?というレベルだった。今村監督は二度目のパルムドール受賞で、どうやらすごい人らしいし、話題にもなっているから見ておこうかな、という軽い気持ちで、当時できたばかりの太田市のシネマコンプレックスに三時間かけて車を走らせ見に行った。

 私のシネコンデビューでもあった。あの時から二十一年たったと思うと、自分の映画鑑賞の歴史もなんだか感慨深い。

 さて。是枝監督においては、今回が五度目のコンペ部門出品となった。悲願の受賞とうたう報道もあるが、ご本人にはそんな気持ちはなかったようだ。もっとも、カンヌのコンペに出品すること自体が難関なのだから、この出品回数がすでに、世界に認められた「コレエダ」であることを物語るし、そのステージにいられる事の意義と使命を、ご本人はひたすらに真摯(しんし)に受け止めてきたのだろうと推察する。次こそは、と思っていたのは周囲の方だったに違いない。

 もちろん私もその一人だ。高崎映画祭では是枝監督デビュー作となる『幻の光』で若手監督グランプリ(第十回)を出したのから始まり、近年の監督賞『そして父になる』(第二十八回)まで八作品を授賞している。ずっと一緒に走ってきた監督、という勝手な思い入れも強い。

 映画制作の厳しい現実に常にさらされ、そこと戦いながら、日本映画界の第一線で、実直に映画を作り続けて来た是枝監督のパルムドール受賞は、殊更に意味を持つものに思えてならない。

 受賞の喜びに加え、「これで企画が通りやすくなる」とおちゃめにコメントしながら「ここを目指す若い映画の作り手たちと分かち合いたい」と話した是枝監督は本当にカッコいい人だと思った。最大限の賛辞とともに、日本映画界のこれからに大きな影響を与えるだろうことに期待を寄せたい。

 と、同時に、世界的権威になった監督には、もうおいそれとお会いできないと思うと一抹の寂しさもある。でも、それこそ「人間万事塞翁(さいおう)が馬」ということで良しとしよう。 (シネマテークたかさき総支配人)

      ◇

 第一、第三、第五日曜日に掲載します。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報