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【群馬】

中小都市爆撃 目的は国民の戦意喪失 一ノ瀬俊也・埼玉大教授に聞く

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 米軍は東京や大阪などの大都市をB29の空襲で壊滅させると、一九四五(昭和二十)年六月ごろから目標を全国の中小都市に転じ、終戦まで爆撃を繰り返した。目的は日本の工業生産力を根こそぎ破壊し、国民の戦意を喪失させることである。

 この戦意喪失のために、米軍はさまざまな種類の宣伝ビラを空からまいた。ビラの内容は二つの特徴をもっていた。一つは、日本軍の各方面における敗退を具体的な地名や数字を挙げながら、論評抜きで伝えた点である。事実のみを伝えることで、日本人に自国がいかに劣勢であるかを頭を使って考えさせ、より深く理解させようとしたのである。

 もうひとつは、日本の指導者層と一般国民の分断を試みた点である。指導者層といっても、天皇への批判は日本人の猛反発を招き、日本降伏後の占領統治を難しくさせると判断されたため行われなかった。ビラはそのかわりに攻撃対象を「軍閥(ぐんばつ)」一本にしぼり、あなたたちがこのように激しい空襲を受けているのは日本軍部が無能であるからだ、と繰り返し訴えかけた。読んだ国民の間から苦しい生活への不平不満や平和を求める声が盛り上がり、軍や政府を突き上げるのを期待したのである。

 そのような米軍の意図を、四五年七月から八月にかけて水戸や八王子、前橋など全国の中小都市に投下された空襲予告ビラはよく表している。「裏に書いてある都市から避難してください」と警告してはいるが、住民が防空法で退避を禁じられていて避難できないことぐらい、米軍も知っていたはずである。つまり、人命救助ではなく心理的動揺を狙ったにすぎない。

 予告ビラには無差別爆撃を正当化する、いわばアリバイ作りの意図もあったとみられる。「爆弾には眼がありませんからどこに落ちるかわかりません」「人道主義のアメリカは罪のない人達(ひとたち)を傷つけたくはありません」との文言は、それをよく表している。軍部批判、「戦争を止める様な新指導者を樹(た)てて平和を恢復(かいふく)したらどうですか」との呼びかけも、先に述べた日本の指導者と国民の分断をねらって発せられただけである。

 これらのビラの宣伝効果を測定するのは難しい。米軍のねらい通りに、日本国民の間から和平を要求する声が表面化するには至らなかった。その意味では効果はなかったともいえる。しかし、終戦直後に米軍が日本人に行った聞き取り調査によれば、調査対象の半数以上がビラを見聞きして、程度の差こそあれ戦争の前途に不安を抱いたという。このことが日本人に降伏という未曽有の事態を納得ずくで受け入れさせ、連合軍の占領統治を円滑に行わせたと考えられる。

 

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