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【茨城】

<ひと物語>環境と共生 コメ栽培 谷津田再生に取り組む・安保満貴さん(38)

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 筑波山を水源にする小さな川が水田を潤す。ここは、桜川市の平野部に続くなだらかな谷あい。「水田の上流には、家も排水もない。私たちの理想のコメを育てるベストの場所」。田んぼに引かれた川の水は透明に輝き、田植えの日を待っていた。

 里山のふもとの谷に開かれた水田「谷津田(やつだ)」の再生を手掛ける株式会社「新しい風さとやま」(牛久市)の取締役として、会社が発足した二年前から、コシヒカリの栽培に汗を流している。

 水源地に近く、昔は「良いコメが収穫できる」と大切にされてきた谷津田は近年、作業効率の悪さなどから放棄されるケースが増えてきた。霞ケ浦の環境保全に取り組むNPO法人「アサザ基金」(牛久市)の関係者が出資する同社は「ビジネスの手法を使って、谷津田と霞ケ浦を守る」ことが事業目的だ。この地の川の水も、桜川を経て、やがて霞ケ浦に流れ込む。

 従業員は、役員のみの四人。今年は牛久市や桜川市、鹿嶋市などの計四十三反(約四ヘクタール)で栽培する。「放棄された谷津田の中では、ごくわずか」だが、一年ごとに少しずつ、面積を増やしている。借りるのは、高齢などを理由に所有者が耕作をやめた田んぼ。収穫した稲を天日干しするはさ掛けの時は、所有者にも声を掛け、収穫したコメの一部も届ける。

 故郷の神奈川県大井町は、丹沢山系に近く、自然が豊か。農業とは無関係の家庭に育ったが、子どものころは、家の周りに広がる田んぼでよく遊んだという。

 「昔ながらの田畑と里山を守る仕事があるのなら、やってみたい」。大学で環境経済学を学んだ後、現場を体験できる東京都内の専門学校に入学。そこでのインターンシップ(就業体験)が縁になり、アサザ基金に就職した。「答えはないけれど、日々、改善しながらより良い姿を探っていく」ことが仕事の楽しさという。

 割高でもコシヒカリを買ってくれるのは、霞ケ浦の自然を取り戻すという「理念に共感してくれるお客」。栽培は無農薬、無肥料で、田んぼの生きものを守るため、水もなるべく抜かない。農作業をしながらホタルやトンボ、カエルの数を数え、発送するコメに添える手紙で客に報告する。

 「田畑で遊んだ思い出や、飛来する鳥。お客は、それぞれの思いを込めて買ってくれる」と紹介する。「味だけでなく、生きものや環境と共生しながら育てたこと」が、コメの付加価値となる。 (酒井健)

<あんぼ・みつたか> 1979(昭和54)年9月、神奈川県大井町生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)環境情報学部を2002年に卒業。04年にアサザ基金に就職し、16年に「新しい風 さとやま」の取締役。妻と2歳の長男との3人家族。牛久市在住。

 

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