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【神奈川】

<2016かながわ 取材ノートから>(1) 相模原殺傷事件

車いすに乗った障害者の方たちも献花に訪れた県立津久井やまゆり園=8月26日、相模原市緑区千木良で

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 正門前の献花台は今も花束が絶えない。相模原市緑区千木良(ちぎら)の県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」。七月二十六日未明、障害者十九人が殺害され、二十七人が負傷する前代未聞の痛ましい事件が起きた。

 相模原に赴任した八月上旬から取材に加わったが、地元住民は既に疲弊している様子だった。「話すことはない」「一日に十何社もマスコミが来て、病気になった」。事件後すぐに東京や横浜では障害者の集いが開かれたが、相模原ではしばらく開かれなかった。

 「世界に知れ渡ったニュース。桁違いの衝撃で、しばらくは地元に何ができるか考えることもできなかった」。園のある旧相模湖町の元町議、宮崎昭子さん(79)からそう聞き、地元のショックをかみしめた。十月下旬、宮崎さんらは住民が事件について考えを述べ合う「共に生きる社会を考えるつどい」を初めて開き、一歩前へと踏み出した。

 なぜこの事件は起き、再発防止にどう取り組んでいけばいいのか−。つどいでさまざまな角度から発せられた住民意見に、うなずき、考えさせられもした。

 ある男性は植松聖(さとし)容疑者(26)が語ったとされる優生思想に触れ、「平等や人権というのは結局は建前。科学的には遺伝子などを調べれば優劣は分かってしまうだろう。でも建前を貫き、納得する社会をつくるしかない」と主張した。つまりは違いを認め合うこと。核心を突いている気がした。

 同市緑区の鈴木哲夫さん(70)は、被害者家族が匿名発表を強く望んだとされることを取り上げた。きょうだいに障害者がいたと打ち明けた鈴木さんは「自分も知られたくない、恥ずかしいという思いがあった」と吐露。理由として、障害がある人らを生殖不能にする手術について定めた旧優生保護法を挙げた。「二十年前まであった法律。この社会には優生主義的な雰囲気は、まだある」。胸に手を当てて考えてみるべき課題である。

 「まさか容疑者が地元の出だったとは」とショックを語ったのは、ある女性。女性は千木良地区が園生と一緒に運動会をしたり、子どもたちが園を訪問したりする取り組みを続けてきたとし、「だからここの子どもたちは障害者を好奇の目で見ない。それが自慢だったのに」と落胆した。共生社会の構築は、口で言うほど簡単ではないのか。

 たとえ健常者であっても、事故や加齢によって弱者になる可能性がある。意識していないと忘れてしまうことかもしれない。県は十月、「ともに生きる社会かながわ憲章」を定めた。大事なのは地元住民のように、手探りながらも何か行動を始めることだろう。

 事件は世界に発信された。ショックを力に変え、共生地域を実現しようとする活動が具体化していけば、その姿もまた世界に発信されるはずだ。県民一人一人の行動に注目していきたい。  

  (井上靖史)

 ◇ 

 県内でさまざまな事件事故やニュースがあった二〇一六年。取材した記者たちが一年を振り返る。

 

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