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【神奈川】

命見つめスズメ描く 平塚の和紙絵画作家・橋本さん

絵画の材料の和紙を手にする橋本さん=平塚市で

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 スズメを描いた和紙絵画で、全国の頂点となる日本和紙絵画大賞を二回受賞した平塚市新町の橋本範子さん(73)が先月、日本和紙絵画展に新たな作品を出品した。描いたのは、若々しい緑の竹林を飛び回るスズメたち。三年ほど前、二度目の栄誉に輝いた直後に急死した長男裕一さん=当時(46)=の「これからも続けて」との言葉に応える思いを込めた。 (布施谷航)

 モデルにしたスズメは、二十年ほど前の冬に次男が連れ帰ってきた。カラスに襲われたらしいそのひなは、すでに固く冷たくなっていたが、必死の看病が功を奏したのか命をつなぎ留めた。この出合いをきっかけに描いた作品が、二〇〇六年の日本和紙絵画展で大賞を受賞。その後も〇九年に外務大臣賞、一四年には二度目の大賞を受賞した。

 「二回も大賞を取るなんてすごい。良かったね」。その年の十一月下旬、知らせを聞いた裕一さんの満面の笑みは、まぶたに焼きついている。東京都内で開かれた授賞式に出席すると、文部科学大臣や文化庁の重職らが、こぞって祝福の言葉をかけてくれた。

 帰りの電車で携帯電話が鳴り、孫が慌てた様子で「お父さんが救急車で運ばれた」と伝えてきた。相模原市に住んでいた裕一さんが自宅で血を吐き、その日は帰宅できたものの翌日に容体が急変。授賞式の二日後、帰らぬ人となった。医者から「内臓に動脈解離があった」と言われた。

裕一さんを亡くした翌年に出品した「戯れる」

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 「受賞祝いのランの花が届く中、遺体が家に着きました」と振り返る。最初はいぶかしげだった葬儀会社の社員もすぐに事情を察し、「祝い」の立て札を外して枕花としてランをひつぎに入れた。あれほど喜んでくれたのに−。「天と地がひっくり返りました」

 それでも和紙と向き合うことはやめなかった。授賞式に向かう前に立ち寄った裕一さんの自宅で「これからも続けて頑張ってね」とのエールを受けていた。その翌年に出品したのは、田んぼで羽を広げてじゃれ合うスズメの姿を描いた「戯れる」。ただ、キャンバスには夕暮れが広がり、どこか物悲しげだ。

 あれから三年余。先月出品した「戯れる雀(すずめ)」は、入賞は逃したものの、朝日が差し込む中、竹の間を元気に飛び回るスズメを描いた。「少し、前向きな気持ちになってきたのかしら」。最愛の息子との思い出が、背中を押してくれたようだ。 

<和紙絵画> 染色された薄い和紙をはさみで切ったり、ちぎったりしてキャンバスで重ね合わせる。絵の具は使わず、和紙を重ねることで無数の色を表現する。1990年に設立された日本和紙絵画芸術協会が毎年、公募展を開いているほか、和紙の文化を広めようと海外でも展示会を催している。

 

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