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【暮らし】

<親子にやさしいフィンランドの子育て> (上)かかりつけ保健師さん 妊娠から一家見守る

シャラウェイさん一家を担当する保健師ピリオ・ラングドンさん(左)。子どもと親の状態を見守る=7日、ヘルシンキ市で

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 「ご両親はきちんと睡眠を取れていますか」

 ヘルシンキ市北部の保健施設「ネウボラ」。保健師のピリオ・ラングドンさん(52)が、三人の子連れの夫婦に尋ねた。四歳の子を抱いた夫のスティーブ・シャラウェイさん(35)は「よく寝られていますよ」とにこやかに答えた。

 ラングドンさんがシャラウェイさん家族と初めて会ったのは五年前。親が子育てをきちんとできる状態にあるかどうか、子どもが健康に育っているかどうかを確かめており、一歳の子の体重を量り、「大きくなったわね」と笑顔を向けた。

 ラングドンさんが特に注意を払うのが、両親が子育てに疲れていないか、悩んでいないか、という点。「一、二歳児の親は睡眠が十分に取れず、疲れがたまってしまうことがある」ためだ。もし問題があれば、市のソーシャルワーカーを家庭に派遣。子育てを休む時間をつくり、精神的負担を軽減するように指導する。

 シャラウェイさんは「育児で分からないことや、子の成長に関して心配なことがあれば、ラングドンさんがアドバイスしてくれる。信頼しています」と話す。

 フィンランドでは、一人の保健師が、妊娠期から産後、子どもが就学する前まで同じ家庭を見守り続ける。保健師が拠点にする施設や、長年同じ家庭を見守る仕組みのことを、同国語で「アドバイスする場」を意味するネウボラと呼ぶ。

 ネウボラは、人口五百五十万人の同国に八百五十カ所、六十二万人のヘルシンキ市に二十四カ所ある。子どもを授かった夫婦は、産前産後に十一回、子どもが一歳になるまでに九回、一歳以降は毎年一回通う。長年見守り続けることで、児童虐待や家庭内暴力の防止につなげる意味もある。

 同国でネウボラが始まったのは一九二〇年代。終戦後は高かった妊産婦と乳児の死亡率を下げるのに貢献した。約九十年の歴史があり、ほとんどの親子が利用している。

 国立保健福祉センター母子保健部門研究総括のトゥオビ・ハクリネン教授は「子どもと夫婦には支援が必要だ。ネウボラに通うことで、さまざまな問題を早期に発見し、予防的に解決できる。問題が顕在化してから解決するよりも行政コスト的にも安く済む」と説明する。

      ◇

 子育てしやすい国として名高い北欧フィンランド。国際NGO(非政府組織)セーブ・ザ・チルドレンから「世界で一番母親にやさしい国」に認定され、共働きで子育てするのが当たり前になっている。現地から報告する。 (寺本康弘、写真も)

◆孤立する親支える仕組みを

 日本では、特定の保健師が妊娠から出産、子育てを通して継続的に同じ家族を見守るシステムはなく、問題を発見できる機会は少ない。ネウボラに詳しい吉備国際大の高橋睦子教授(福祉政策論)は「親は相談したくても、どこに行けばいいのか分からず、孤立してしまいがち」と分析する。

 国は、ネウボラを参考に妊娠から子育て期までの親を支える子育て世代包括支援センターを、二〇二〇年度末までに全国に整備する方針。

 高橋教授は「利用者目線の子育て支援へとステップアップすることで、虐待予防の効果が期待される。利用者の声をしっかりキャッチすることが支援のスタンスとしても大切」と話す。ただ、市町村に取り組みへの温度差があり、差を埋めるのが課題だという。

 

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