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【暮らし】

2016 あの人はその後… 苦しんだ私支える側に

 年の瀬のいま、「あの人」たちはどうしているでしょうか。生活部記者が、今年1年の取材の中から、最も印象に残った人の「その後」を再取材しました。

出版社の編集者と、母子感染症をテーマにした翻訳本の打ち合わせをする渡辺智美さん(右)=東京都渋谷区で

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◆母子感染症の患者会「トーチの会」=7月22日掲載

 来月、体験記を翻訳出版 同じ痛み味わわせない

 母子感染症をテーマにした翻訳本を出版するために、ネットで資金を募った東京都豊島区の歯科医師渡辺智美さん(36)。今月上旬、出版社「サウザンブックス」(渋谷区)を訪れ、編集者と打ち合わせをしながらつぶやいた。「早く出来上がった本を見たいな」

 七月下旬の記事では、渡辺さんが妊娠中に生肉を食べて病原体「トキソプラズマ」に感染した可能性が高く、長女(5つ)に障害があって生まれたことや患者会「トーチの会」を設立して母子感染症の予防策を啓発していることを紹介。子どもの尿や唾液を介して母子感染する「サイトメガロウイルス」が原因で、娘を亡くしたアメリカの女性の体験記を翻訳して出版する計画も掲載した。

 トーチの会は翻訳本出版のため、ネットで資金を集め目標金額を百五十万円に設定。最終的に、十月中旬までの約二カ月半で約二百万円を集めた。資金提供や情報拡散をしてくれた人の中には医師も多かった。

 先天性サイトメガロウイルス感染症について研究している三重大病院産婦人科(津市)の鳥谷部(とりやべ)邦明医師(33)もその一人だ。鳥谷部医師は二〇一三年ごろ、学会で渡辺さんに出会った。当時は産婦人科医の間でさえ認知度が低かった「サイトメガロウイルス」。その中で渡辺さんは、妊婦が初感染すると赤ちゃんに難聴などの障害が出る危険性が高まるため妊娠中の感染予防が重要だと訴えていた。

 鳥谷部医師らの研究で、母親のおなかの中でサイトメガロウイルスに感染した赤ちゃんが、三重県ではこの三年間で二十人以上に上ることが分かっている。渡辺さんは十月に三重県医師会に招かれ津市で講演した。鳥谷部医師は「情報発信を続けてきたトーチの会の意義は大きい」と話す。

 「なぜ妊娠中に生肉など食べたのか」。渡辺さんは活動当初、ネットに中傷を書き込まれたことがあった。そのことを渡辺さん自身が最も悔やみ、自分を責め続けてきた。実名と顔を出して啓発を続けてきたのは、同じ痛みを他の人に味わわせたくないからだ。

 「本作りを通して、こんなにたくさん応援してくれる人がいるんだと確認できた」と渡辺さん。生まれてくる赤ちゃんを知識で守ってほしい−。患者と医師の願いがぎゅっと詰まった本は、来月末にも出来上がる。 (細川暁子)

認知症カフェ「峠の茶屋」で、多数の仲間に囲まれる福田人志さん(中央左)と中倉美智子さん(同右)=長崎県佐世保市で

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◆若年性認知症詠む「壱行の会」の二人=5月18、19日掲載

 認知症カフェを月1開催 誰もが一息つける場を

 僕達の歌が たった一人のために その一人の人にとどけば そこからみんなにとどく−。

 模造紙に毛筆で書かれた「歌」が、白板に張り出された。今月初旬、長崎県のJR佐世保駅に近い文化施設の一室。「こんにちは」。上着を脱ぎながら老若男女が集まってくる。

 佐世保市に住む若年性認知症の当事者、福田人志さん(54)と同居のパートナー中倉美智子さん(62)が中心となって開いている認知症カフェの始まりだ。

 調理師だった福田さんが認知症と診断されたのは、二〇一四年七月。記事では福田さんがメモ用紙に殴り書きした心の叫びの「歌」を中倉さんが清書し、「壱行の会」として展示会開催に至るまでを紹介した。

 カフェは、その活動の発展形。「絶望しかなかった自分でも生きる意味を見いだせるようになった。今度は、認知症の人やその家族を励ますことができたら」(福田さん)。今年五月から月一回開催。多いときで約三十人が集まる。がんやうつ病の人、ボランティアとしてそれらと関わりたい人など、認知症の関係者にとどまらない。誰もが一息つけるとの意味でカフェの名は「峠の茶屋」という。

 カフェ進行にも決まりはなく、持ち寄ったお茶と菓子だけで談笑の輪が広がる。壱行の会の従来の作品も展示され、福田さんが添えている色鉛筆画の緻密さに、同じ若年性認知症の女性(56)は「すごいなあ」。

 福田さんらは新年早々、カフェ参加者の有志で認知症の人たちを手助けする「認友クラブ」を結成。公共機関に相談窓口を開くなど、さらに積極的な社会貢献を目指す。その心境は最新の「歌」にも表れる。

 我らは 何があっても 心は裕福であれ−。(白鳥龍也)

 

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