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【暮らし】

<いのちの響き>ALS患者として生きる(下) 表現手段 精力的に開拓

ラジオ番組の司会を務めるALS患者の武藤将胤さん(右)。ゲストには「DefTech」の「Micro」さんら有名アーティストを招いている

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 二月下旬、東京都港区のラジオ局「J−WAVE」のスタジオに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の武藤将胤(まさたね)さん(30)=東京都港区=の姿があった。毎週金曜日の深夜放送の「WITH」の収録風景。武藤さんが司会を務める音楽番組だ。

 この日のゲスト、二人組ユニット「Def Tech」(デフテック)のボーカル「Micro」(マイクロ)さんへのインタビュー中、武藤さんが胸の内を語った。「ALSを発症後に何度も音楽に励まされ、もう一回頑張ろうと思えた」

 司会を始めたのは、ALS発症から約二年後の二〇一六年十月。この難病を知ってほしいと自ら作詞した曲をネットで公開したり、DJとして音楽イベントを開いたりする活動が番組関係者の目に留まった。出演を打診され、「同じような病気の人の励みになれば」と二つ返事で引き受けた。

 だが、ALSは口の周りの筋肉も衰えさせていく。ろれつが回らなくなり、最終的には話せなくなる可能性もある。「声が聞き取りにくくないか、ちゃんと思いが伝わるか、次の収録の時はまだ話せるのか。本当はいつも不安」

 武藤さんは現在、周囲の理解や協力で仕事は続けているが、手で物をほとんどつかめない。家にいるときに電話があると、妻の木綿子(ゆうこ)さん(33)が武藤さんの耳に携帯電話を近づける。着替えや食事、入浴も木綿子さんの支えなしにはできない。筋力が衰え、体重は約二年間で十キロ減って六三キロになった。

 障害者となり、ある疑問が膨らんだ。「障害者に表現の自由はあるのか」。そもそも話せなかったり、表現するのに困難を抱えたりする人もいる。「障害者を含め、誰もが表現できる世の中にしたい。意思疎通の手段を手掛けたい」

 病気になる前から会員制交流サイト(SNS)などで発信してきた経験を生かし、指をうまく動かせない人も情報を検索したり、SNSで考えを明らかにしたりできるよう、目の動きなどでスマートフォンやパソコンなどを操作できるアプリの開発にかかわる。武藤さんが代表理事を務める一般社団法人「WITH ALS」は昨年から、眼鏡チェーン店「JINS」を展開する「ジェイアイエヌ」(東京都千代田区)と共同開発中だ。

 外出を促すため、電動車いすのレンタル事業にも着手した。電動車いすは高額で購入をためらう人も多く、レンタルなら利用者もいると見込んだ。若者の患者を引きつけようと、デザインが売りの電動車いすメーカー「WHILL(ウィル)」(横浜市)に協力を求めた。資金集めは順調。想定の半分の一カ月で、目標の三百万円を集めた。

 絶望さえ感じたこともあったが、ALS患者になって一つだけ良かったことがある。「手が使えない、歩けない、声が出せない−。障害がある人の気持ちが痛いほど分かった」

 障害者の立場を想像できる健常者が増えれば、両者の垣根は低くなる。そのためにも、障害者がもっと表現してほしいと思う。自分がその懸け橋となりたい。健常者から突然、障害者となった自分の使命とも感じている。 (細川暁子)

 

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