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【暮らし】

<いのちの響き>ある知的障害者の更生(上) 自分を見つめ直し償い

屋台でカキを販売する男性(右)と施設の代表=岐阜県内で

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 雨で客足が鈍い。負けじと、男性(33)の声が大きくなる。「さあっ! おいしいカキはいかがっすか」

 三月下旬、岐阜県内の神社の縁日。夜になり、出店が軒を連ねた参道の一角に、愛知県西尾張地方にある障害者就労支援施設が構える店があった。毎月の縁日のたび、利用者数人が出向き、焼きガキを販売する。

 男性も施設利用者の一人。中度の知的障害があり、漢字の読み書きやお釣りの計算が苦手だ。自分の気持ちをうまく表現できないと、一方的に話し続けてしまうこともある。

 それでも、慣れた手つきでカキをむき、気さくに客と会話する様子を、隣で手伝う男性代表(67)はしみじみと見つめた。「よう板についてきた」。施設に来た三年前は品物を客に手渡すのがやっとだっただけに、見違えるようだった。

 男性は長崎県出身という。六歳から名古屋市内の児童養護施設で育てられた。兄姉も同じ施設にいたが、ほかの家族の所在は分からず、「生みの親の記憶もない」という。

 小中学校には施設から通い、野球や剣道が好きだった。しかし、漢字や計算の授業にはついていけず、多くの時間を特別支援学級で過ごした。上級生から「なんで勉強できんの」とからかわれるたび、見返せないのがつらかった。

 特別支援学校高等部を中退後、学校の紹介で障害者を受け入れているごみ収集会社などで働いたが、長続きしなかった。やがて、夜の繁華街をうろつくようになり、そこで出会った少年らとミニバイクの窃盗や置引などの非行に走った。「警察から逃げるスリルが楽しかった」

 成人後は、キャバクラや風俗店の客引きをしたという。会社勤めしていたころから障害がない同僚との給与の差に不満があり、「昼の仕事より稼げると誘われた」のが理由だった。

 しかし、金を求める生活の代償は軽くなかった。二〇〇九年、逮捕され、昏睡(こんすい)強盗罪で懲役三年八カ月の実刑判決を言い渡された。判決では、知人女性と共謀し、テレクラで男性会社員をホテルに誘い出し、睡眠導入剤を入れたコーヒーを飲ませて眠らせ、現金四万円入りの財布を盗んだことなどが事実認定された。「働いてもまともに給料をもらえない。日銭を稼ぐためには仕方ないと思っていた」と男性は振り返る。

 しかし、逮捕後の取り調べや服役が心境に変化をもたらした。空き時間、六法全書を借り、読めない漢字を教わりながら、犯した罪について調べてみた。「自分の行いをどう思っているのか」。弁護士らに繰り返し尋ねられた質問の意味を考えるためだった。「楽して生きようとする自分の弱さが、周りの人に迷惑を掛けた」。まともに生き直すことが償いだと思った。

 出所後、県内の市役所を訪ね、就労支援施設の紹介を頼んだ。しかし、逮捕歴があることを知りながら、受け入れようという施設はなかなかなかった。ようやく見つかったのが、現在身を寄せている施設だった。

 あれから三年。「生活保護や障害年金と合わせても、収入は客引きしていたころの半分にもならない」。時折、そんな不満がこみ上げる。しかし「ほかに行き先はない」。その思いが、男性を踏ん張らせている。 (添田隆典)

 

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