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【暮らし】

<消えた有権者>代筆投票(下) 「秘密」を保障した憲法と矛盾

中田さんの自署。以前は家族やヘルパーによる代筆で投票してきた(一部画像処理)

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 投票所で代筆できる人を選管職員に限定したことで、認知症などで文字が書けなくなった高齢者の「一票」が届きにくくなっている。同じことは、障害がある人たちにも起きている。憲法が国民に保障している「投票の秘密」。この権利は、現在の代筆投票の制度で守られているだろうか。 (三浦耕喜)

 「国家に『あなたは主権者ではない』と認定されたのかと、大変苦痛に感じました」。もつれてはいるが、はっきりした声が今月十二日、大阪地裁の法廷に響いた。投票所で代筆できる人を選管職員に限った公職選挙法の規定は憲法に違反するとして、希望する補助者の協力で投票する権利の確認などを国に求めた訴訟の初弁論だ。

 陳述したのは、原告の大阪府豊中市に住む中田泰博さん(44)。先天性の脳性まひがある。文字は書けるが、所定の記載欄に収まるようには書けない。無効票にされかねないと、家族やヘルパーに代筆してもらっていた。

 ところが二〇一三年の公選法改正で、それが不可能になった。見ず知らずの選管職員に投票先を伝えて書いてもらう制度になったためだ。

 「投票内容は高度なプライバシーのはず。だからこそ憲法で明文化されている」と中田さんは言う。昨年七月の参院選では地元選管に何度も談判したが、改正法を盾に認められず、投票を断念した。

 憲法は一五条四項に「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」と定める。中田さんには「すべて」に、自分が入っていないように感じられる。だれに、どの党に、投票するのか。その秘密が守られることは民主政治の根幹だ。投票先が分かれば、不当な圧力を受けかねない。自由に投票先を選べる根拠でもある。

 もちろん障害の制約はある。だから、せめて「この人なら教えてもいい」という人を選ばせてほしい。これが中田さんの願いだ。

 一三年の法改正時の議事録を読むと、憲法が保障する「投票の秘密」を掘り下げた形跡はない。憲法は与野党ともこだわる政治の大事のはず。なのに、だれも憲法との矛盾に気付かなかったのだろうか。「当事者の声を聞かないから」。中田さんは、こうつぶやいた。

ALS患者として選挙権について話す恩田聖敬さん=岐阜市の長良川スポーツプラザで

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◆当事者の声をよく聞いて

 サッカーJ2のFC岐阜元社長で筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘う恩田聖敬さん(39)も昨年七月の参院選で疑問を感じた一人。恩田さんは言う。

      ◇

 ほぼ動けない、話せない状態になって初の選挙でした。郵便投票は煩雑そうで断念。妻とヘルパーに連れられ、投票所に向かいました。バリアフリーで中まではスムーズに入れます。

 妻が事情を説明すると、選管職員が私の意思を確認して代筆するといいます。しかし、選管職員は口文字ができません。候補者名を指さし、まだ動く首で意思を確認します。仕方ないので、そうしましたが、第三者に投票先を知られるのは気持ちの良いものではありません。大きな争点がある選挙なら、自分の信条を知られぬよう、棄権を選択するかもしれません。

 例えば、家族や介助者をあらかじめ登録し、その代筆なら認めてはどうでしょうか。話せない私でも、家族や介助者とはコミュニケートできます。障害があっても人を守り、支えることは普通にあります。一緒に生きられる社会をつくるため、当事者の声をよく聞いてほしいと思います。

 

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