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【暮らし】

<要注意!クラッシャー上司>命の危険編(上) 強すぎる権威は事故招く

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 部下の仕事を苦役に変え、組織発展の芽を摘んでしまう「クラッシャー上司」。2月27日から3月13日まで毎週月曜日に3回、「要注意!! クラッシャー上司」を連載した。大きな反響をいただいたことであらためて事の重大さを感じ、さらに調べてみると、クラッシャー上司は「要注意!!」どころか、状況によっては人命を損なう危険まであることが浮かび上がった。3回にわたって紹介する。 (三浦耕喜)

 今回、訪ねたのは日本航空の元機長で航空評論家の小林宏之さん(70)。愛知県新城市の出身で、現役時代は四十二年間、一万八千五百時間を飛んだ。運航安全推進部長も務めたプロだ。飛行機事故のたび、しばしばコメントを求められる。

 「先日もテレビで拝見しました」と記者が言うと、小林さんは温和な中にも厳しい目で答えた。「本当は事故の後にコメントするよりも、事故が起きる前のことを考えるべきなのですが」。現場で数々のトラブルを乗り越えてきた経験がにじみ出る。

 取材の趣旨を伝えると小林さんは言った。「現在の航空会社に『クラッシャー上司』は存在しません。安全運航の要である『CRM』を損なうからです」

 CRMは、一九七〇年代に米国で研究が始まった航空機の安全運航を図る概念だそうだ。「当初は『コックピット・リソース・マネジメント』の略称でした。操縦室内の人的・機械的すべてのリソース(資源)を引き出して安全運航を図る考え方です」と説く。

 第二次世界大戦後、航空機は一般的な乗り物となり、事故の防止は社会の要請となった。メーカーは機体の改良に着手。金属疲労の仕組みを解明し、エンジンの信頼性を高め、複数の操縦系統を用意した。国も規則を整備。管制による誘導に従うこと、決められた航路を飛ぶことなど、安全ルール作りも進んだ。

 これらで事故率は次第に下がったが、七〇年代後半に事故率は横ばいとなった。事故率が下がらないまま便数が増えれば、事故の件数は増えるばかりだ。

 機体もルールも良くなっている。すると、残るは「ヒューマンエラー」。調べると、乗員間のコミュニケーション不足や勘違いなど、人為的ミスが事故の60〜80%を占めることが明らかになった。

 「人間はだれもが間違えます。上司である機長の間違いを部下が正せるか。ここにCRMの狙いがあります」と説明する。

 例えば九九年に起きた大韓航空貨物機墜落事故。機長の操縦ミスだったが、航空機関士が「バンク(機体を傾けすぎ)」と指摘したのに、機長は無視した。当時、空軍出身者がパイロットになることが多く、軍隊当時の階級を持ち込んで、部下を威圧することも背景にあったと指摘された。

 威圧的な機長だけではない。七七年に発生したジャンボ機同士の衝突事故では、濃霧の中、滑走路に別の機がいる可能性に航空機関士が気付いた。機長に告げたが、機長は大丈夫と判断して滑走開始。五百八十三人が犠牲となった。

 機長は、教官として多くの操縦士を育て、信望も厚かった。クラッシャー上司とは異なるかもしれない。「ですが、信望があったが故に『何が』ではなく『だれが』正しいかにすり替わってしまった。『この人が言うのなら』と」。小林さんは強調する。

 「大勢の命を預かる機長の責務は重大。だからこそ、自分の間違いを正そうとする声にも耳を開く。機長の権威を、部下が何でも言える程度にする必要がある。これを『適度な権威勾配』と呼びます」と言う。

 「その構造は他の分野や業界にもいえます」と小林さん。それは何か。二十六日掲載の(中)に続く。

 

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