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【暮らし】

<夏モノ語り>(5)福岡・みやまの「線香花火」 はかなさ、人生のように

線香花火を見つめる筒井良太さん

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 産声を上げた小さな火の玉が、いっとき激しく光の矢束(やたば)を四方に散らし、やがてポトリと地に落ちる。「一見地味だけど、実は派手。火花がどんどん表情を変える」。福岡県みやま市のブドウ畑に囲まれた筒井時正玩具花火製造所は、安い中国産に押され、今ではほかに群馬、愛知両県にしかないという国産の線香花火の製造元。筒井良太さん(44)はその三代目になる。

 明るく、大きな火花。国産ならではの魅力を生み出す鍵は火薬の調合にある。

 原料は硝石(硝酸カリウム)、硫黄、松煙(しょうえん)。松煙は切り倒して三十年ほどたった松の根をいぶした宮崎県産を使う。調合割合は「湿度なんかの影響を受けるんで、いつも通用する正解はないんです」。試作品の火球がきれいなまん丸になれば、最高温度が理想の八〇〇度ぐらいまで上がっている証拠。一本わずか〇・〇八グラムというこの黒色火薬を和紙に包み、こよりのようによった「長手(ながて)」と、ワラの先に火薬を塗った「スボ手」の二種に仕立てる。緻密な手業が、華やかで、はかなげな火花の表情を生む。

 花火の歴史は古く、江戸時代には徳川家康が観覧したと伝わる。戦の道具だった火薬は、江戸の世で庶民の娯楽として花火に形を変えた。この頃、香炉に線香のように立てて遊んだのが線香花火の名の由来という。

 長く隆盛を誇った国産花火は、一九八〇年代から中国産に徐々に押され、都市部では遊べる場所も減少。おもちゃ花火の国内生産額は、過去約二十五年で五分の一に落ち込んだ。

和ろうそくとろうそく立てが付いた「花々」

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 線香花火も「単価が三十分の一ほど」(大手卸業者)という中国産が今や九割以上を占める。筒井さんは、九〇年代末に「国産最後の一社」とされたおじが経営する福岡県八女市の製造所が廃業した折に、技術と道具を引き継いだ。「三百年以上、日本人に愛されてきたものだから」。それまで扱ってこなかった線香花火を看板商品に据えた。

 八年ほど前に開発した「線香花火筒井時正」は、八女の手すき和紙を草木染で染め、持ち手を花びらのように仕上げた繊細な一品。「人の一生に例えられる花火だからこそ、人生の節目に贈ってもらえれば」。きり箱に納め、大人向けの贈答品として新たな市場を開拓する。

 夜。ひとしきり派手な花火で騒いだら、最後にようやくそれを手に取る。ジー、パチパチ…ポトン。線香花火の一生は、祭りの帰り道のような、どこか切ない夏の日の記憶につながっている。「限られた時間で天命をまっとうするように咲く。生きざまみたいなものを示してくれてるんじゃないですかね」。だから人は魅せられる。 (西日本新聞・斉藤幸奈)

  =おわり

<メモ>筒井時正玩具花火製造所は1929年創業。子ども向けのおもちゃ花火約30種を手掛ける。線香花火は年間約80万本を製造。長手、スボ手ともに15本入り540円。「線香花火筒井時正」40本に、九州産ハゼの実から抽出されたろうでできた和ろうそくと、九州の山桜でつくったろうそく立てが付いた「花々」はきり箱入りで1万800円。製造所のほか、ホームページ=http://tsutsuitokimasa.jp/=での購入も可能。福岡県みやま市高田町竹飯1950の1。(問)同製造所=電0944(67)0764

 

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