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【暮らし】

<いのちの響き>ダウン症の店長「やっちゃん」(下) 親たち励ます希望の星

ダウン症の店長の森川靖子さん(左)を慕い、カフェ「やっちゃんち」に通うようになった河村加織さん(右)。「やっちゃん」の存在に励まされるという=名古屋市昭和区で

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 いま 私の願いごとが かなうならば 翼がほしい

 先月上旬、名古屋市昭和区の「ガーデンカフェ やっちゃんち」に、歌声が響いた。「翼をください」を歌うのは、ダウン症の子どもを持つ母親たち約十人。カフェの店長でダウン症の「やっちゃん」こと森川靖子さん(33)は、歌詞に合わせて中学生の音楽発表会で覚えた手話を披露した。

 「やっちゃん、手話見せて」という母親たちのリクエストで始まった合唱。「やっちゃん、ありがとう」「すてきだった」。子どもを膝の上に乗せて歌い終えた母親たちから、拍手と歓声があがった。

 「やっちゃんち」には和室の広間がある。ここでは、就学前のダウン症の子どもを持つ母親たちが月一回程度、集会を開いている。約二時間の集まりで、やっちゃんが作る飲み物を片手に情報交換をしたり、子どもを遊ばせたり。会費や和室の利用料などは不要で、母親たちが払うのは一人三百円の飲み物代だけ。

 市内に住む河村加織さん(36)が、ダウン症がある長男の駿君(1つ)を連れてやっちゃんちに通いだしたのは約三カ月前。駿君が歩く練習などのために通っている療育センターで、ママ友に教えてもらい、連れてきてもらった。療育センターにいるのは〇〜二歳ごろの子だが、やっちゃんちには駿君より大きな子も来る。離乳食の進め方など、先輩ママに聞けるのが心強いという。

 「ダウン症の告知を受けた直後は、駿の顔を見るたびに自分を責めて泣いていた。ジロジロと駿を見られたくなくて、外出もしなかった。孤独だった」。河村さんはそう振り返る。

 「将来、駿は働けるのか」。初めての子育てで、不安ばかりだった日々。でも、やっちゃんに出会い、「先を思い悩むより、今の成長をしっかり見守ろう」と前向きになった。やっちゃんが立派に店長を務めている姿に励まされた。

 「自分も苦しんだ分、お母さんたちの気持ちはよく分かる」。やっちゃんと一緒にカフェで働く母親の和世さん(67)は言う。やっちゃんの生後三週間でダウン症の告知を受けた後、和世さんもやはり泣いてばかりいた。やっちゃんに障害があることで、やっちゃんの兄(41)と姉(39)にも、結婚などで将来、影響があるのではと心配した。「電車に乗るときはやっちゃんの顔を隠すように抱っこしていた」

 自分ではやっちゃんの障害を受け入れているつもりなのに、つい健常児と比べて落ち込む。さらに、そんな自分に「なんなんだろう」と嫌気が差す。でも、やっちゃんが成長するに連れ、そんなふうに思うことはなくなった。今は「お店に来るお母さんたちが、『やっちゃんは希望』と言ってくれることが、本当にありがたい」。

 でも、周囲にそう思われようと、やっちゃん自身に気負いはない。和世さんは「そもそもやっちゃんは、『ダウン症』という言葉は知っていても、それがどういうことかや、自分が人と違うとかは、思っていないはず」と話す。

 やっちゃんは今日も、お客さんが子どもでもお年寄りでも障害者でも、丁寧に飲み物を作ってテーブルに運び、ゆっくりと話しかける。それはきっと明日も変わらない。「おいしい、ありがとうと言ってもらえるのが、一番うれしいです。お客さんは、みんな同じです」 (細川暁子)

 

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