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【暮らし】

<家族のこと話そう>父の言葉で「狭き門」へ 弁護士・亀石倫子さん

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 北海道小樽市で小さな食品会社を営む家に生まれました。父が二十代で脱サラして起業し、母が手伝っていました。父はお酒が飲めず、人と付き合うより映画を見たり本を読んだりするのが好き。自由にわが道を行く人で、協調性もない。私は、そんな性格をそっくり受け継ぎました。

 私も幼いころから一人で本を読んだりするのが好きでした。集団生活になじめず、授業中は保健室で過ごしたり、掃除もサボったり。通知表に毎回「協調性がない」と書かれ、母はものすごく心配しました。でも、父はまったく気にせず、書店や釣りによく連れて行ってくれました。

 高校三年のとき、父はフランスの小説「狭き門」から引用し、「狭くて困難な道を行って初めて自分のやりたいことが実現できる」という言葉を教えてくれました。私が楽をして第一志望ではない推薦枠のある大学に進もうとしたからです。安易な道を選ぼうとした自分が恥ずかしくて、いまも強烈に心に残っています。

 大学卒業後、いったんは北海道で就職したものの、組織で働くことになじめず、三年半で退職。結婚してだんなさんの職場のある大阪に移りました。少しだけ専業主婦をしていたころ、書店で目に留まったのが司法試験のパンフレットです。弁護士なら、組織に属さずに一生やっていけると思いました。

 それから予備校や法科大学院に通い、毎日十時間以上勉強し、七年かけて合格しました。妻らしいことを何もできていないのに、だんなさんが普通に接してくれたことを思うと、途中でやめるという選択肢はありませんでした。

 両親も心配だったと思います。お盆に帰省した際、勉強の疲れからぐったりして休んでいたら、直後に父から手紙をもらいました。「だんなさんやその家族に迷惑を掛けてるのに、とても合格したい姿に見えない」って。悔しくて破り捨てたんですが、結果がすべて。何も言い返せなかった。ただ、そんなときでも、自分を奮い立たせることができたのは、父に教わった「狭き門」の言葉が胸にあったから。

 それと、だんなさんにも感謝しています。合格したときも「スタート地点に立っただけ」と一喜一憂せずにそばにいてくれたから、私も平常心で乗り切れたんです。

 今年三月、令状なしの衛星利用測位システム(GPS)捜査を最高裁が違法とした裁判で、主任弁護人を務めました。実は、最終弁論のとき両親に傍聴に来てもらいました。最高裁なんて、弁護士でも一生に一回あるかないかですから。「みっちゃん、すごいね」っていう一言が聞けて、ようやく親孝行できたと思えました。

 聞き手・添田隆典/写真・伊藤遼

<かめいし・みちこ> 1974年、北海道小樽市生まれ。97年、東京女子大文理学部(当時)卒業。大阪市立大法科大学院を経て2009年、大阪弁護士会に登録。「法律事務所エクラうめだ」代表。裁判所の令状なしに大阪府警が行ったGPS端末を使った捜査の違法性を争った訴訟で主任弁護人を務め、3月に最高裁で違法判決を勝ち取り、注目される。

 

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