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【暮らし】

不当な理由でも、お金で解決「金銭解雇」 「職場に戻すのが当然」

「引越社関東との裁判では、この5倍の文書を作りました」と話す清水直子さん=東京都渋谷区で

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 不当な理由による解雇でも、会社が従業員に解決金を支払えば解雇できる「金銭解雇」を導入する議論が政府内で進んでいる。制度化されると、企業にとってはリストラの武器となる一方、従業員は正当な理由がなくても解雇される不安を抱えることになる。 (三浦耕喜)

 「辞めてしまっては社の理不尽な命令がまかり通る。働き続けたのは、劣悪な労働環境を改善し、安心して健全な働き方ができる会社にしたいからです」。配置転換は不当として、「アリさんマーク」で知られる引越社関東(東京)を訴えた同社社員の男性は、今年五月、自身の訴えを認める内容で同社との和解が成立し、会見で思いを語った。

 男性は、労働組合への加入をきっかけに、営業職から立ちっぱなしで書類をシュレッダーにかけ、ごみを出す「シュレッダー係」に異動させられた。処遇は違法として、二〇一五年七月、営業職の地位確認などを求めて東京地裁に提訴。すると、会社は翌月、男性を懲戒解雇とし、顔写真付きで「罪状」と書いた文書を各支店に張り出したり、社内報に掲載したりしたが、その後、解雇を撤回した。

 和解の際、会社は謝罪し、男性は営業職とシュレッダー係の賃金差額相当分などの支払いを受け、営業職に戻った。だが、金銭解雇が導入されていたら、男性の復帰は難しかったと想像される。

 男性を支援してきた個人加盟労組「プレカリアートユニオン」(東京)の清水直子委員長(44)は「金銭解雇が可能になれば、会社は職場を良くしようと立ち上がる人を追い出せる。解決金の額も、現状では会社との交渉で本人が納得して決められるが、一律に上限が決められたら間違いなく下がる」と断言する。

 「解雇が不当なら、職場に戻すのが当然」と言うのは、労組「名古屋ふれあいユニオン」の浅野文秀運営委員長(60)。六年前から携わった例を振り返る。

 それは愛知県内の部品製造会社から解雇を通告された四十代(当時)男性のケース。病気休職していたが、復職しようとすると会社側は「ポジションがない」などの理由で解雇を通告した。最高裁まで争った裁判で、会社は解雇が不当だったと認め、解決金の支払いに同意。しかし、退職を求めた。男性は拒否し、復職して今も働く。

 しかし、一般には上司や会社との信頼関係が壊れ、ある程度の解決金を受け取り退職するケースが多い。「しかし、金を払えば不当な解雇もまかり通るという話ではない。四十代、五十代でやられたら再就職は難しく、人生取り返しがつかない。働き続けることに重点を置くべきだ」と言う。

 金銭解雇をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会が五月、一定の必要性があるとする報告書をまとめた。異論もあったが、議論は厚労相の諮問機関・労働政策審議会に移る。

 労働問題に詳しい名古屋北法律事務所の白川秀之弁護士(38)は「解決金の上限を定めるのが最大の狙い。企業にとっては経営計画を立てる上で、いくら払えばリストラできるか予測できるのは大きなメリット。また、使用者側に申し立ての権利を認めるのかも懸念される」と話している。

<金銭解雇> 労働者が不当に解雇されたと裁判所などが認めた場合でも、職場復帰ではなく、金銭を払うことによる解決を会社側に認める制度。現行の労働契約法は16条で「解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用(らんよう)したものとして無効とする」と不当解雇を禁じている。だが、厚生労働省の有識者検討会は金銭解雇について、一定の必要があるとの報告書をまとめた。現状では解雇の可否をめぐる訴えは労働者側からのみ申し立てられるが、仮に会社側による申し立ても認められれば、不当な解雇や退職勧奨が多発するとの懸念がある。

 

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