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【暮らし】

若年がん患者に治療情報 将来「子どもを持てる」可能性も

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 日本癌(がん)治療学会は七月、若いがん患者が治療後に子どもを持つ可能性を残すための方法を示したガイドライン(指針)をまとめた。これまでは、生殖医療に関するがん治療医の知識不足や、生殖医療専門医との連携不足などが原因で、患者に不妊の可能性を伝えていない例が少なくなかった。今後はがん治療を最優先した上で、適切に情報を提供し、妊娠の可能性を残すための治療を受けるかどうかなど、将来的な選択を患者自らができる幅が広がることになる。(竹上順子)

 東京都内に住むデザイナー黒田朋子さん(38)は六年前、白血病と診断され、その日のうちに入院。翌日、抗がん剤治療をすぐに始めなければならないと言われ、同意書を手渡された。

 そこには治療のリスクの一つとして「不妊」の二文字が記されていた。だが、主治医から詳しい説明はなかった。その夜、白血病患者のブログをいくつか見ると、同年代の女性が不妊になる可能性を知らされないまま抗がん剤治療を受け、閉経状態になっていた。

 ショックを受け、翌日、主治医に尋ねると「生きられるからいいでしょう」。当時は結婚二年目で、子どもを持ちたいと思い始めていた。黒田さんは生殖医療クリニックを入院しながら自分で探し、つらい抗がん剤治療の合間の退院中に、採卵を四回試みた。治療で卵巣機能は低下していたが、受精卵一つを凍結保存できた。「この受精卵で希望がつながった」

 がん治療を急ぐ必要性は理解できたが「知らないうちに子どもを持てなくなっていたかも」との思いは今も消えない。だから指針に期待を寄せる。「大きな一歩。こうした問題が当たり前に語られる世の中になるといい」と願う。

 指針は「小児、思春期・若年がん患者の妊孕(にんよう)性温存に関する診療ガイドライン」。妊孕性は妊娠する力を意味し、男女が対象。原則四十歳前に治療を始めた患者について、妊孕性を温存することが可能か、がん治療医らが判断する指針となる。がん治療を最優先した上で、患者には治療による不妊の可能性の有無や、妊孕性を温存する方法を知らせることを推奨している。

 妊孕性を温存する治療は生殖医療専門医が担う。主な方法は卵子や精子などの凍結保存。ただこれまでは、治療を受けるために患者ががん治療医、生殖医療専門医それぞれに自分の病状や治療状況を説明しなければならないことが多く、負担が重かったため、指針では、今後、緊密な医療連携が必要と指摘している。

 策定に関わった聖マリアンナ医科大の鈴木直教授(産婦人科)は「(婦人科のがんだけでなく)幅広いがんについて扱っている点がこの指針の特長」と話す。

◆「がん・生殖医療」岐阜で38機関連携

 がん治療医と生殖医療専門医が連携したシステムがある地域は全国に十数カ所。岐阜県のがん・生殖医療ネットワークには医療機関など三十八カ所が参加。病院間の垣根を越えて患者を支援する全国初の試みとして注目される。

 若年のがん患者は本人の希望に基づき、主治医らを通じて岐阜大病院の「がん・生殖医療外来」を受診。妊孕性温存についての情報提供を受け、希望すると、同病院や連携先の生殖医療施設で治療を受ける。がん治療終了後も、不妊治療や妊娠後のサポートなどを受けられる。

 同病院の周産期・生殖医療センター長、古井辰郎臨床教授は「若い患者が十分な理解の上で、将来を自ら考え、選択できるための支援は必要。連携はどこでも進めなければならない」と話した。

 

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