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【暮らし】

<いのちの響き>医療的ケア児の家族(上) 助け借りて未来へ望み

夏目昌彦さんと由子さんに見守られ、手作りの台車に乗る美祈ちゃん=愛知県幸田町で

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 「愛称みのたん 18トリソミー、心室中隔欠損、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)があります」。愛知県幸田町の看護師、夏目由子さん(39)は、こうコメントを添えて一年ほど前からインターネットの写真共有アプリ「インスタグラム」に、一人娘の美祈(みのり)ちゃん(2つ)の写真をアップしている。

 18トリソミーは、染色体の異常による先天性疾患で、心疾患や唇が裂ける「口唇口蓋裂」、呼吸器系などの合併症などを発症する。疾患を伴って生まれる子は三千五百〜八千五百人に一人で、90〜70%が生後一年以内に亡くなるとされる。

 美祈ちゃんは生まれつき、鼻と口の間に大きなこぶがあり、鼻には栄養を送り込むチューブが付いている。目をくりっとさせてカメラを見つめたり、目をにんまりと細めて笑ったりした写真をアップすると、毎回百人ほどが「いいね」と応援してくれる。

 「一歳までに亡くなってしまう子が多い病気だけど、美祈は二歳になっても笑っている。みんなにその姿を見てほしくて」というのがインスタを始めた理由。だから、たくさんのいいねを見ると、由子さんは救われた気持ちになる。

 でも、匿名でコメントを書き込めるインターネットの世界。好意的なものばかりではない。「エイリアンみたい」「短命の子に、税金で医療費を使う意味があるのか」。こんな書き込みがあると「誰だって病気になり、障害者になる可能性はあるのに」と、由子さんは唇をかみしめる。

 これまでも、社会を冷たいと感じることは何度もあった。美祈ちゃんが生まれて数カ月後、障害者手帳の申請に、医師の意見書を持参して役場に行くと「申請書は渡せない」と窓口で言われた。担当者が制度をよく理解していなかったためだったと後で分かったが、病院のソーシャルワーカーに掛け合ってもらい、申請書を入手するのに数週間がかかった。

 保育園に預けたいと、生活支援員を通じて役場に相談しに行った時も断られた。チューブから栄養を注入する必要がある美祈ちゃんは、看護師の配置など特別な配慮がいる「医療的ケア児」に当たるとされ、「看護師の配置は前例がない」との理由だった。

 由子さんと同じく看護師だった夫の昌彦さん(36)は、仕事を辞めた。預け先がない美祈ちゃんをみるためと、由子さんの方が収入が多かったからだ。しかし、周囲には「障害者手当があるからお金には困ってないんでしょう」「子どもがそんな状態で働くの?」などと言う人もいた。

 でも、一緒に美祈ちゃんの成長を喜んでくれる人たちもいた。愛知県岡崎市で障害児を対象にした「こども訪問看護ステーション じん」などを経営する安井隆光さん(34)もその一人。

 病院のスタッフに紹介されたのは生後半年ごろ。週に三回ほど、安井さんやスタッフらが自宅にリハビリに来てくれることになった。最初は寝ているだけだった美祈ちゃんが、一歳ごろには自力で横を向けるようになり、今ではスタッフが段ボールで作った台車に乗って、足で床を蹴りながら進めるようになった。

 六月からは、月に一回程度安井さんが運営する別の事業所で、他の医療的ケアが必要な子と一緒に食事をしたり保育士らと遊んだりして触れ合えるようになった。

 今も保育園に行けるわけではないし、世間の風を冷たく感じることもある。「でも今は、未来が見えるようになってきた。それは、たくさんの人が力を貸してくれ、世界が広がったから」と、由子さんは言う。 (細川暁子)

 

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