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【暮らし】

<要注意!!クラッシャー上司> 部下育成に悩む40、50代

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 電通の過労自殺に続き、NHKでも過労死が発覚した。その原因として長時間労働が指摘されているが、仕事が苦役となってしまう背景には「クラッシャー上司」の存在もある。働き方改革が急がれ、企業風土や上司の気質といった問題も浮かび上がる中、上司も部下との接し方に悩んでいる。 (三浦耕喜)

 東京駅にほど近いビルの二十階。夜景を眺めながら彼は考えていた。「部下をどう指導していくか…」。四十代も後半となれば、現場からチームをまとめる管理職に引き上げられる。最近課長級の「チームリーダー」になったばかり。十五人ほどの部下を率いる。

 実績には自信がある。大手商社で食品事業を担当。社内での評価もそれなりに高く、最重要の取引先にも出向。海外事業も一から立ち上げた。

 「それも○○さんや△△さんに鍛えられたおかげだな…」。先輩たちは言った。「おまえの給料を稼いでくれている先輩が残業しているのに、帰るのか?」「今日はいくら稼いだ?」

 徹夜で上げた資料を、どこが悪いとも言われずにやり直しと言われた。「なんだ、『クラッシャー上司』ばかりじゃないか」

 理不尽な仕打ちに憤った夜もあった。でも「なにくそ!」という思いを培ったのも事実だ。後輩だった自分たちも「『クラッシュ』しながら鍛える」という「成功体験」が染み付いた。

 社会に出たのもバブル経済華やかなころ。それこそ、二十四時間闘った。大いに叱られた。怒られた。でも、その分成果は出た。給料も上がった。やりがいがあった。うれしかった。今の自分を作り上げてもらったという思いがある。

 だが、それから四半世紀。「クラッシュ」は通じないどころか、組織を壊す時代となった。特に海外ではネックになった。中国では現地スタッフたちが「あの礼儀正しい日本人が、職場では乱暴になるのか」と反発し、去っていった。やがて、同様の現象は日本国内でも起きた。部下を鍛えるつもりでも裏目に出て、人材が流出していった。

 根性と経験、人間関係でやってきた仕事だが、「ビジネス」としてはどうやるものなのか。日本への帰国後、大学の社会人教育の門をたたいた。

 そこで出会ったのが「コーチング」の技術だった。気付いたのは「自分がいかに部下の話を聞いていなかったのか」だ。今や新卒だけでなく、同業、異業種からの転職など、社の人材は多彩だ。ある程度の価値観を共有していれば「クラッシュ」的なコミュニケーションも成り立ちやすいが、教えられたのは「クラッシャーではビジネスはできない」ということだ。

 講師に問われて胸にぐさっと刺さったことがある。「あなたは、ミーティングでも人の話を聞こうとしていないでしょう。あなたがやっているのは、相手を説得しようとすること。でも、相手を動かし、ビジネスを進めるのは、『説得すること』ではなく、『納得させること』なんですよ」

 すべてが変わったとは言わない。でも、以来、後輩たちの話にいろんなヒントがあることに気付いた。「今までの自分は、自分の型に人を合わせようとしていた。おかしなものです。『新しいもの』は『違うもの』から生まれるのに」

 ささやかだが、最近自慢することができた。「育休明けで戻って来た後輩が言うんです。『先輩、話しやすくなりましたね』って」

 とにかく「話を聞く」。考えるのはそれからだ。「クラッシャーにならずに部下を鍛えられるかチャレンジです」

 

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