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【暮らし】

<放り出された障害者 大量解雇の現場から> (1)給付金の規制 引き金

閉鎖後にA型事業所「パドマ」のシャッターに掲示された張り紙=名古屋市北区で

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 名古屋市や岡山県倉敷市などで、一般企業への就労が難しい障害者が働く「就労継続支援A型事業所」が経営破綻し、働いていた障害者が一斉に解雇される事案が相次いでいる。取材からは、「うまみのあるビジネス」として参入し、経営努力を欠く事業者が一部にいたことがみえてきた。しかし、事業所の閉鎖で一番困ったのは破綻した事業者ではなく、行き場をなくした障害者だ。一連の問題は、どんな課題を浮かび上がらせたのか−。 (出口有紀)

 「A型が閉鎖され、大勢の障害者が解雇されそうだ」。初めてそう聞いたのは八月七日。名古屋市北区にある、そのA型「パドマ」に向かう。ただし、その時点では「A型って何?」というのが本当のところ。

 障害者向け作業所の組織「きょうされん」愛知支部事務局長の大野健志さん(46)とパドマの近くで待ち合わせた。大野さんに聞くと、A型とは障害者がパン作りなどの仕事をして給料をもらうところ。パドマは同区の民間企業「障がい者支援機構」の運営で、パドマの他、全国五カ所でA型を運営しているという。「六カ所で計百六十人の障害者が職を失う。早急に行き先をなんとかしないと」。大野さんは固く唇を結ぶ。

 後で調べたことも合わせると、A型は二〇〇六年の障害者自立支援法(現障害者総合支援法)でできた制度。事業者と雇用契約を結んだ障害者(利用者)は、事業者が他の企業などから受注した仕事をし、最低賃金(最賃)以上の給料を得る。給料は、一人月平均六万円ほどになるという。B型という事業所もあり、障害がより重い人が通う。雇用契約は結ばず、工賃は平均月一万五千円ほどという。

 A型には利用者一人当たり一日約五千円の給付金があることも、大野さんは教えてくれた。ここで疑問が湧いた。事業収益だけでなく国の支援もあるのに、なぜ会社が傾くのか。

 パドマの実態はまだよく分かっていなかったが、「A型の中には、事業で収益をだす努力をせず給付金頼みのところもあった。それが今春、国が給付金を利用者の給料に充てないよう規制を強めたため、収益がでていない事業所は利用者に給料を払えなくなったんです」と大野さんは言う。一人約五千円の給付金をもらい、時給を千円とした場合、勤務時間を四時間にすれば、千円が事業者の手元に残る。利用者が十人いれば一万円…。そういうごまかしができなくなったということか。

 現場に着いた。商店街の表通りを少し入ったところ。長屋のような建物だ。シャッターに「しばらく休みます」との張り紙がある。中では、ハローワーク名古屋中のスタッフが面談会を開いていた。鈴木斉(ひとし)次長は「県内ではかつてない規模の障害者の一斉解雇」と深刻な表情だ。

 翌日、再び訪問すると男性社長がいた。疲れた表情で「今は利用者の対応で忙しいので、後日お話しします」と話した。柔和な物腰で、悪質な事業者にはみえなかった。しかし、「後日」はなかった。約束した日時、社長は現れず、その後も連絡はついていない。

 愛知県や名古屋市が現在把握している範囲では、障がい者支援機構が愛知県内で運営していたパドマと清須市の「スーリヤ」のA型二カ所で行き先のめどがついているのは元利用者計六十九人のうち四十一人。残る二十八人は突然、職を失ったまま。六〜八月の給料も未払いだ。

 パドマで利用者たちに仕事を教えていた元従業員女性(69)は言う。「社長は言い訳をするばかりで、国は仕組みを作って、お金を出しただけ。切り捨てられるのは障害者。今の状況がもどかしいし、悔しい」

 あのとき、もっと強くくぎをさしていたら…。女性は、数年前、満面に笑みを浮かべていた社長を思い出していた。

 

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