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【暮らし】

<放り出された障害者 大量解雇の現場から> (2)運営の実態 本業おざなり 規模拡大

障がい者支援機構から利用者たちに送られた「解雇理由証明書」(一部画像処理)

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 「こんなにゼロがある。これはぼくの金!」

 八月末に閉鎖された障害者の就労継続支援A型事業所「パドマ」(名古屋市北区)で、利用者に仕事のやり方を教えていた元従業員女性(69)には、忘れられない光景がある。金融機関の通帳を開き、にこにこしていた運営会社「障がい者支援機構」(同)の男性社長。

 新たなA型を立ち上げた直後のことだった。女性は直接、通帳を見てはいないが、国からの給付金などで、口座残高はそれまで見たこともないような数字だったのだろう。のぼせ上がったような表情の社長に「これはみんなの税金。よく頭に入れておいて」。女性はすぐに、くぎを刺した。でも、この声が届いたのかどうかは分からない。

 女性がパドマに就職したのは設立から一年後の二〇一四年。元々、社長は十年来の知人だった。以前、障害者の就労支援機関で働いていた社長の印象は「障害者に丁寧に接し、仕事ぶりも真面目な人」。女性がパドマに入ったのは、社長への信頼があったからだ。しかし、「こんな人だったかな?」と、次第に信頼は揺らいでいった。

 パドマでの仕事は、シール貼りや靴下、帽子の梱包(こんぽう)、住宅材の洗浄などの内職が中心。単価は安く、女性によると「利用者一人に払えるのは時給にして百円くらい」。だが、利用者には最低賃金(最賃)以上の時給を保証しなくてはいけない。国からの給付金は本来、従業員の人件費や光熱費などに充てられ、利用者の技術向上に役立てられる。しかし、利用者の給料を事業収益だけでまかなえるはずはない。

 その状況を改善しようとしないまま、社長は千葉や埼玉、大阪にもA型を開設していった。「まずはパドマをしっかり安定させて、それから次をつくればいい。一、二年待てないの?」。社長をそう諭したこともあったが、このときもやはり女性の声は届かなかった。

 障害者一人につき一日約五千円の給付金に加え、A型には特定求職者雇用開発助成金(特開金)という国からの“ボーナス”がある。就職が難しい重度の障害者を雇うと、一人当たり最長三年間で最大二百四十万円が支給される制度だ。

 パドマには、他のA型にはあまりいない重度の人も多かったと指摘する利用者もいる。三年間働いた男性(62)は「本来は(障害の程度が重い人が通う)B型に行った方がいい人も入れてしまっていた。特開金目当てだったのではないか」と話す。

 今年三月、厚生労働省が地方自治体に、給付金を利用者の給料に充てないよう、A型への指導を強化するよう通達したのをきっかけに、運営の行き詰まりが表面化した。社長は、八月一日に開いたパドマの利用者向け説明会で「給付金で皆さんの給料のほとんどを払っていた」と告白。それができなくなったため、閉鎖すると伝えたという。

 国の通達以降、A型が閉鎖され、利用者が解雇された事例は、他の地域でもある。同一グループがA型を展開していた岡山県倉敷市と高松市では、計約二百八十人が解雇された。札幌市でも解雇された障害者五人と元従業員が、地位確認と慰謝料を求めて事業者を札幌地裁に提訴している。給付金頼みの運営は、パドマだけの問題ではなかった。 (出口有紀)

 

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