東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 11月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<家族のこと話そう>英国滞在 親子3人に絆 哲学者・國分功一郎さん

写真

 中学一年生の娘が二歳のころに離婚して、シングルファーザーになりました。当時は娘を都内の保育園に預け、講義がある日は群馬の高崎経済大まで通勤。買い物、料理、洗濯など、家事が忙しくても、寝かしつける時には必ず絵本を読み聞かせました。千葉に住む両親もよく電車で手伝いに来て、支えてくれました。

 子育てを助けてもらった保育園の先生方には、感謝しかありません。入園時はまだオムツがとれていませんでしたが、ある日迎えに行ったら一人でトイレに座っていた。感激しました。保育園の父母会の役員も四年間経験し、素晴らしい保育制度を守っていかなければと強く思いました。園の駐車場が狭かったので役所と交渉し続けた結果、市が敷地を整備してくれたことも。やりがいがありました。

 シングルになって数年後、写真家の妻と再婚しました。娘が五歳のころかな。僕と妻がけんかになって、「謝る」「謝らない」で言い合いをしていたときのこと。娘がこう言ったんです。「『ごめんなさい』っていうのは、『もうしません』っていう意味なんだよ」と。きっと保育園で先生に言われて、印象に残っていたのでしょう。「いいこと言うなあ」と心に染み入りました。

 二年前には、大学の研究休暇を使い親子三人で一年間英国に住みました。当時小学五年生だった娘は地元の学校に通ったのですが、英語をほとんど話せなかったので僕は心配でたまらなかった。でも学校が「すべての子どもには教育を受ける権利がある」と、特別に英語の授業をしたり補助の先生を付けたり配慮してくれた。英国では子どもにも権利についてしっかりと教えます。例えば修学旅行に行くか行かないかも子どもに決めさせます。娘は自由な学校の雰囲気を楽しんでいました。

 思春期の子どもとの関係に悩む親も多いようですが、娘は学校でのできごとなどを僕にいろいろ話してくれます。それは、僕が娘との時間を何より大事にしてきたからだと思います。子どもであれ夫婦であれ、誰かと一緒にいるとけんかをするし、仲直りには時間がかかる。だからコミュニケーションを取るための時間が、一番大切です。

 英国に行ったのは、ちょうど講演や本の執筆など僕の仕事が忙しくて余裕がなくなり、日本から脱出したいと思っていた時期でした。あの一年は家族でゆっくりと過ごすことができ、ヨーロッパをたくさん旅行しました。家族が落ち着きを取り戻した、貴重な時間でした。

 聞き手・写真 細川暁子

<こくぶん・こういちろう> 1974年、千葉県生まれ。高崎経済大准教授。専攻は哲学。新著「中動態の世界」(医学書院)で小林秀雄賞。6月に出版した共著「保育園を呼ぶ声が聞こえる」(太田出版)では、保育士の待遇改善や待機児童問題などを論じている。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報