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【暮らし】

<放り出された障害者 大量解雇の現場から> (4)厳しい一般就労への道

壁に松葉づえを立て掛け書類を読み込む女性=名古屋市中村区のハローワーク名古屋中で

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 会社のビルに入る時、わずかな段差に阻まれた。松葉づえが滑って、転んでしまった。タクシーの運転手に手伝ってもらって事なきを得たが、面接の担当者には言えなかった。「『そんな体では、採用しない』と言われるかもって思ったから」。朝から雨が降り、肌寒かった十月下旬の日のことを名古屋市北区の女性(57)は振り返る。

 女性は脳性まひのため脚が不自由で、松葉づえと車いすが手放せない。同区の障害者就労継続支援A型事業所「パドマ」で働いていたが、運営していた同区の民間企業「障がい者支援機構」が経営破綻し、急に八月末で解雇された。

 もともと、名古屋市の区役所で三十年余り、電話交換手をしていた。健常者の職員と二人の部署で、かかってきた電話を担当部署につないだ。座ったままできる仕事だが、同僚より動きはゆっくり。部屋の掃除や、朝にお湯を沸かしてポットに入れるのも同僚がしてくれていた。「私には運べない。やると言っても『危ないし、時間がかかる』と言われてしまう」

 同僚に申し訳ないという気持ちが常にあった。負担を減らすため、健常者の職員を増やせないか上司に相談したこともあったが、だめだった。「同僚は私のおもり役にならざるを得なかったし、部署の仕事をうまく回す責任も同僚の方に重くかかったと思う。それでも、私なりについていこうと大変だった」。ぎっくり腰になったのを機に、二〇一三年に退職した。

 パドマへの就職は一年半後に決まった。同僚が皆、障害がある職場でも、周囲に対する心苦しさは変わらなかった。靴下の箱詰めやシール貼りなどの内職仕事が中心だったが、人によって速さや正確さは違う。「体に障害がない精神障害の人たちが、車いすの人ら障害が重い人の分も仕事をしていた。でも、給料は同じ。たぶん、仕事ができる人はぼやいていたと思う」

 今は一人暮らし。失業保険は一年後に切れる。これまでも障害年金とパドマでの給料、家族からの援助では足りず、以前の貯金を切り崩してきたが、年内にも底をつきそうだ。

 面接に行ったのは、コールセンターの仕事。経験が生かせる上、自宅からほど近い。職場やトイレなどで、車いすや松葉づえを使えるかも確認した。しかし、不採用だった。「移動のことだけでなく、健常者ばかりの中で、一日二百本もの電話をかけることに耐えられるのか、不安に思われたかも」。周囲に負担をかけずに働けるか。その不安がいつもつきまとう。

 一六年度のハローワークを通じた障害者の就職件数は九万三千二百二十九件で、前年度比3・4%増。職を探して見つかった人の割合も48・6%で、同比0・4ポイント増だった。国は企業や自治体などに一定割合以上、障害者を雇用するよう義務づけている。来春からその割合が引き上げられることもあり、障害者の雇用は増えると期待されている。

 それでも、女性は「やっぱり車いすはネック。一般就労にもチャレンジしたいけど、自分の状態を考えるとやっぱりA型かな」。より障害が重い人が通うB型よりも収入は多く、生活は安定する。それだけに、障害者にとって“転ばぬ先のつえ”のA型が各地で閉鎖されるのは気にかかる。「一般就労が難しく、A型を当てにするしかない人もいるのだから」 (出口有紀)

 

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