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【暮らし】

認知症の親の介護でイライラ 「さん」付けで少し距離感

母の金森良子さん(右)を「ちゃあちゃん」と呼び、笑顔で語りかける西山美紀子さん=静岡県藤枝市で

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 「認知症の親を介護するとき、つい声を荒らげてしまう」。生活部にしばしば寄せられる声だ。「血縁関係がない人だと、こうはならないのに…」という人も多い。これは、しっかりしていたころを知っているが故に、以前のように意思疎通できないことにイライラしてしまうことが原因の一つと考えられる。そんなとき、あえて名前に「さん」を付けて呼ぶなど、意識的に距離を置くと、気持ちが落ち着くことがあるという。 (河郷丈史)

 「ちゃあちゃん」。十一月中旬、静岡県藤枝市の介護施設で、市内の西山美紀子さん(60)が実母の金森良子さん(93)に、こう語りかけた。美紀子さんが長男を出産したとき、良子さんが「『おばあちゃん』でなく『ちゃあちゃん』と呼んで」と言って以来、家族はこう呼んできた。

 良子さんは要介護4で認知症があり、一年前に入所するまで美紀子さんが自宅で介護していた。大変だったのは「どこに行くの?」「何しに行くの?」など、良子さんが繰り返す同じ質問への受け答え。きちんと答えなければ怒るため、美紀子さんにとって大きなストレスだった。「あんなにしっかりしていたのに…」といら立ち、口調がきつくなることも度々あった。

 そんなある日、ふと「ちゃあちゃん」でなく、「良子さん」「金森さん」と呼んでみた。すると、波立っていた感情が落ち着いた。「母のことを『さん付け』で呼んでいる自分を、別の自分が見ているような感覚でしょうか」。そう呼ばれた良子さんも、普段と違う感じがしたのか、機嫌が良くなることが多かったという。「お互いの気持ちを落ち着かせ、介護をスムーズにするための『ツール』として使っていました」と振り返る。今はイライラすることもなくなり、以前のように「ちゃあちゃん」と呼んでいる。

 こうした変化について、東海大教授で精神科医の渡辺俊之さん(58)は、こう説明する。「認知症により培ってきた家族間のコミュニケーションのパターンが壊れても、介護する家族は染みついた以前の関係性をなかなか修正できない。さん付けで呼ぶと、スタイルが変わり、介護者が自分と相手の関係を切り離し、客観的に見ることができる」

 コミュニケーションのパターンを変える方法は、さん付けで呼ぶことに限らない。例えば、語尾に「です」「ます」を付けて丁寧に話し掛けたりするのも、同様の効果が期待できるという。介護する家族が自分の感情をコントロールできれば、認知症の患者の気持ちも落ち着く。

 もちろん、状況によっては介護を受ける人を戸惑わせてしまうし、家族によって築いてきた関係性も違う。慣れ親しんだ呼称を変えることに、抵抗を感じる介護者もいる。渡辺さんは「すべての家族でうまくいくとは限らない」と前置きし「相手を思う気持ちが変わらなければ、罪悪感を抱く必要はない。呼び方を変えることでお互いの感情が安定するのなら、一つの手段として使ってみてもいいのでは」と話す。

    ◇   ◇   

 日ごろの介護の負担を減らし、前向きな気持ちになるための知恵や工夫について、体験談やアイデアを募集します。ファクス052(222)5284、メールseikatu@chunichi.co.jpへ。

 

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