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【暮らし】

<放り出された障害者 大量解雇の現場から> (5)短期間にA型を転々

パドマの元利用者たちによる会で現状を話し合う男性(手前)=名古屋市熱田区の労働会館で

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 液体石けんの容器二十四本を箱に詰め、シールを貼って封をする。一時間に一箱を仕上げる同僚たちを横目に、七箱ほどを仕上げる。「仕事が物足りない分『なんぼでもやったるわ』となる。でも、時給は一緒。どないなっとんねん」。名古屋市北区の障害者就労継続支援A型事業所「パドマ」で働いていた五十代の精神障害がある男性は、こう笑う。

 職場で一緒に働いていたのは十二人。知的や視覚と障害はさまざまで、その重さもまたさまざま。人によって仕事のスピードも違う。自然と男性がゆっくりな人の分をカバーする形になる。指導役だった従業員の女性は「仕事が早く、間違いもなかった」と話す。ノルマや納期に追われることもなく、男性にとっても働きやすい職場だった。

 しかし、通い始めて一年がすぎたころ、突然、シャッターが下ろされ、八月末で解雇された。給料がなくなり「年金と失業手当では、家賃を払うと足らん」。貯金を崩してしのいでいたが、十月から別のA型で働き始めた。同時に、元利用者たちと困り事を話し合う会を立ち上げた。

 男性は二十五年ほど前に、関西を離れ東海地方の郵便局に勤めた。しかし、家族や職場の人間関係などからうつ病になり、十年ほど前に退職した。大型トラックの運転手などをしたが、精神的に不安定な状態での勤務はほどなく限界に。二年前、障害者認定を受けた。障害年金を受給できるようになり「今は独身なので、A型の給料があれば普通に暮らせる」。

 障害者の就職率は上昇傾向にあるものの、その後も安定して働き続けるとなると難しいケースが少なくない。障害者職業総合センター(千葉市)が四月にまとめた調査では、A型を含む就職先への定着率は、就職後三カ月時点では80・5%。それが一年の時点では61・5%に落ち込む。一方、厚生労働省の調査では、二〇一六年三月の大卒で就職後一年以内に仕事を辞めた人の割合は11・3%。調査主体が違い単純比較はできないが、それでも両者の開きがうかがえる。

 男性も、精神障害者手帳の交付を受けた一五年から、昨年、パドマに就職するまでA型六カ所を渡り歩いた。一日しか持たなかったA型では、同僚が話してくれず、仕事のやり方も教えてくれなかった。障害が影響することもあり、仕方ないとは思ったが耐えられなかった。

 別のA型では、倉庫の中でびんや缶の仕分けをしたが「とにかくくさい。帰りにバスに乗ると、周りに変な顔をされるほど」。公園のトイレ掃除もきつかった。一日三十カ所、一カ所十分ほどで、便器のこびりつきを鉄のへらで落とす。「作業中に着ていたカッパを脱いでも、におっている気がした」。一カ月以上は続けられなかった。

 現在勤めるA型では、ピザ店のチラシ折りなどが担当する主な仕事。「昔の仕事からしたら、どんな仕事でも簡単にできるというのが本音」

 だから、やりがいを求めて一般企業への挑戦も頭をよぎる。ただ、日によって感情に波があるという障害を、転職先の同僚に理解してもらい、人間関係をつくるのは大変だ。「何か言われたら、自分を抑えられないんじゃないかと心配。だから、今いる場所がいいと思うようにしている」 =おわり

(この連載は出口有紀が担当しました)

 

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