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【暮らし】

年賀状の心 今に問い掛け 広辞苑生みの親・新村出 直筆はがき発見

新村出さんが足利竹千代さんに送った年賀状。裏面(左)の手書きの賀詞からは老いてなお、の若々しさや気概が感じられる

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 長寿社会とはいえなかった五十五年前、八十六歳にして九十二歳の友人に年賀状で「千歳まで長生きを」とエールを送った人物がいる。「広辞苑」(岩波書店)生みの親、新村出(しんむらいずる)さん(一八七六〜一九六七年)だ。近ごろは「終活」の一環で「年賀状じまい」をする人が増えている。だが、末永く友人たちと言葉でぬくもりや励ましを交換するのも人生の楽しみ。この年賀状に触発されてみるのも若々しく新年を迎える一手といえそうだ。 (白鳥龍也)

 年賀状は、東京都多摩市の年賀状収集家、高尾均さん(68)がこのほど、京都市の好事家から譲り受けた古い年賀状の束の中から偶然見つけた。

 当時、官製はがきは五円。裏面には、京都市内の新村さんの住所や氏名のほか「謹賀新春」「昭和三十七(一九六二)年正月吉日」などの文字が印刷されている。表面に筆で書かれた宛先は、同じ京都市内に住んでいた足利竹千代(本名・武千代)さん。室町幕府の足利将軍家の子孫で、国語表現の研究者、実践者として新村さんと親交があったようだ。

 ふるっているのは、裏面に筆書きされた賀詞。「言霊(ことだま)の幸(さき)はふ国の久寿翁(くじゅおきな) もゝとせ越えて千代(ちよ)さかえませ」とある。

 高尾さんから託されてこの年賀状を調べた生活手紙文研究家中川越さん(63)によると「言霊の幸はふ国」は、「万葉集」にある日本国の別称。「言葉によって幸せがもたらされる国」という意味だ。「久寿翁」は、当時九十歳すぎの竹千代さんを指し「ももとせ」、すなわち百歳を超えて「千代」=「千歳」まで元気で栄えてほしい、との願いを込めた。竹千代さんの「千代」に掛けた表現でもある。表の宛名書きのうち「松」「竹」などの横にわざわざ朱墨で丸印を付け、めでたさを演出しているところも面白い。

 新村さんは、東京帝大(東大)助教授、京都帝大(京大)教授などを経て言語学研究に従事。一九五五年に初版が発行された広辞苑の編著者として知られる。この年賀状がしたためられたのは、その六年後のこと。

 中川さんは、新村さんが「言霊の幸はふ国」を賀詞の冒頭に用いたことについて「日本が、温かで確かな言葉によって幸福を目指す国になってほしいというメッセージを込めたのでしょう。日本語の“門番”としての、今日にも通じる気概が読み取れる」と指摘。

 八十六歳が九十二歳に送ったエールに関しても「老いてなお若々しい。現代は終活などと称して、年賀状でのこうした励まし合いも省略しがちな風潮にあるが、たとえ寸言でもそこにみずみずしい真心があれば、人の心を何よりも温めるということを教えてくれる」と話している。

 お年玉付き年賀はがきの発行枚数は二〇〇三年の約四十四億六千万枚をピークに減少傾向。一六年には約三十一億四千万枚にまで減った。

 今回の発見を参考に、もう一度年賀状の意義を考えてみてはどうだろう。 

 

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