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【暮らし】

<いのちの響き>地域移行のはざまで(6) それぞれに合った場所で

作業所で食事する寺田賢二さん(左)と女性。寺川登さん(中)は「障害者も当たり前のように住む場所を選べる社会になってほしい」と話す=滋賀県東近江市で

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 ワンフロア八部屋の三階建てアパート。グループホームは一戸建ての家が多いが、滋賀県東近江市の社会福祉法人「あゆみ福祉会」が市内で運営する「ホームぱすてる」は、このアパートの二部屋だけを借りたグループホームだ。他の部屋には、一般の人が入居している。

 ホームで暮らすのは、男女の二人。2DKの部屋にそれぞれ住む。女性(42)は、知的障害で自閉症がある。障害支援区分は最重度の「6」だ。特別支援学校を卒業後、実家から同法人が運営する作業所に通っていた。だが、両親が亡くなると実家での自活は難しくなった。

 そのため、二〇一一年に自宅から同法人が運営する別のホームに転居。しかし、こだわりが強く、気に入らないことがあると、人に靴を投げつけたり、人の服を破ってしまったり。生活を支援するキーパーたちも「どうすればいいか分からない」と悩んだ。

 そこで、法人理事長の寺川登さん(56)は、他の人と一緒に暮らすよりも、女性には一人で生活する方が向いていると判断。一三年に、アパートの部屋を借りて開いたのが、ぱすてるだ。女性が作業所から帰宅する夕方から翌朝までと、作業所が休みの土日祝日、キーパーが交代で訪れる。時々、女性がジャンプして床を踏みならすこともあるが、防音マットを敷いていることもあって、他の部屋からの苦情はないという。

 隣室には、統合失調症で支援区分「3」の寺田賢二さん(50)が暮らす。朝夕の食事は、寺田さんが女性の部屋に行ってキーパーが作った食事を三人で一緒に食べる。

 寺田さんも人間関係に悩んできた。二十年ほど前は、障害年金を受給しながら倉庫の出荷作業などのアルバイトをして一人暮らしをしていた。だが、指示されたことをうまくできず働く自信をなくし、生活に困るように。女性と同じ作業所に通い、五人で暮らすホームに入所した。

 家賃負担が軽くなり生活は安定した。だが、他の入所者が自分の部屋を勝手に開けて本などを見るのが耐えられず、口論になることもたびたびだった。別のホームに移ったがそこでもうまくいかず、寺川さんに「一人で暮らしたい」と相談し、ぱすてるに移った。

 食事中、女性が怒りだして、寺田さんを押したり足を軽く蹴ったりすることがある。怒った寺田さんが自分の部屋に戻って一人で食事をしたこともある。しかし、その後「賢二さんは?」と女性が気にしていたとキーパーから聞き、また一緒に食べるようになった。

 女性が攻撃的になることは減った。一緒に暮らすうちに女性が大声を上げても、テレビを見るなどして気にしないでいると、女性も落ち着くことも分かった。

 以前のホームでは、周囲との人間関係に悩むこともあったが、ぱすてるで暮らすうち、こう思うようになった。「障害の重い軽いはあるけれど、誰も好きで障害者になったわけじゃない。ウマが合わない人はいても、悪い人は一人もいない。それぞれに合った住む場所や働く場所がある」

 月に一度、寺田さんは七十代後半の母親に電話で近況を報告する。だが、「いずれ親は亡くなる。自分で生きていかないと」。作業所には電車で通い、アパートの住民と擦れ違えば進んであいさつをする。

 「私たちはハンディがあるけれど、発信することはできる」。支援があればアパートに住んで仕事をし、社会の中で生きていける。このホームは、二人から社会へのそんなメッセージだ。 (細川暁子)

  =おわり

 

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