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【暮らし】

<正月に食す>(3)耳うどん(栃木県佐野市) つるっと厄も一のみ

「耳うどん」を作る野村信行さん=栃木県佐野市で

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 正月の三が日に耳の形をしたうどんを食べれば、悪魔に家の話を聞かれず無病息災で過ごせる−。

 そんな言い伝えを持つのが、栃木県佐野市の「耳うどん」。山あいにある仙波町周辺の郷土料理で、ほかに「耳を食べてしまえば悪口が聞こえず、近所付き合いがうまくいく」との意味もある。

 江戸時代後期には食べられていたとされるが、昭和の中ごろまでには作る家庭はめっきり減った。それを約五十年前に復活させたのが、手打ちそばどころ「野村屋本店」三代目店主の野村博昭さん(83)だった。仙波町で小学校の校長を務めていた親類から「面白いうどんがある」と聞き、地元のおばあさんたちに作り方を教えてもらった。

 なぜ耳の形なのか。「ゆでおきしても、細く長い麺よりのびにくいから」と、現店主で四代目の信行さん(59)。昔は年末に各家庭で生地を打ってゆで、水を張ったかめなどに入れて軒先に置いておいた。親類や客が来たら温め、つゆに入れて振る舞ったという。かつて餅はぜいたく品だったため「お雑煮の餅代わりだったんでしょう」と推察する。

 約三十五年前、会社員だった信行さんは博昭さんの長女寿子さん(57)と結婚し、修業を経て店に入った。それ以来、情熱を注いできたのが耳うどんの改良。餅に負けないくらい滑らかで、もちもちした食感にするため研究を重ねた。

 大きさなどは「すいとん」と似ているが、同じような作り方では「ごわごわしい」(信行さん)口当たりになってしまう。研究の結果、三種の小麦粉を混ぜ、手でこねては寝かせることを繰り返し、つるつるとした「のめっこい」(同)食感にたどり着いた。生地を延ばしてマッチ箱大に切り、両端に水を付けてきゅっと丸めて留めると、耳のような形になる。

 店では一年を通して耳うどんを提供。正月料理が由来なので、ユズの香るしょうゆ味のつゆに、だて巻きや鶏肉などを入れる。冬の週末は一日約八十杯、正月には一日で二百杯近く出る人気ぶりという。近くの店が郷土料理としてメニューに取り入れたり、道の駅で売られたりするようにもなった。

 昨年秋から、他店で修業してきた次男の迪也(ふみや)さん(29)が一緒に仕事をしている。「おれも自由にやってきたから、息子にも自由にやってほしい」と信行さん。伝統の味が、さらに進化することを期待している。

 文・竹上順子/写真・圷真一

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<メモ> 野村屋本店は1907(明治40)年創業。本文で紹介したスタンダードな「耳うどん」(税込み780円)、みそ煮込み(同850円)、餅やチーズの入ったカレー煮込み(同900円)など計6種類の耳うどんがある。佐野名物「大根そば」(同680円)など、そばも人気。

 野村屋本店の住所は栃木県佐野市相生町2819。木曜定休。持ち帰り用の耳うどんもある。問い合わせは、同店=電0283(22)0396=へ。ホームページは「野村屋本店」で検索。

 

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