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【暮らし】

<ともに>「弱者」を戦力に(中) 無駄省き「世間で戦える」

座椅子にもたれてパソコンに向かう高篠里緒さん=名古屋市南区で

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 障害や介護、子育て、病気の治療などのハンディを抱える“わけあり人材”を、企業はどのようにして戦力にするか。今後、わけあり人材だらけになる日本の盛衰を左右する課題だ。それを実現させる働き方を試みる愛知県東海市のウェブや名刺のデザインなどを手掛ける「仙拓」。自らも寝たきりの重度障害者である佐藤仙務(ひさむ)社長(26)や社員たちは、どんな働き方をしているのか。 (三浦耕喜)

 名古屋市南区の住宅地。玄関を上がって右に彼女の「職場」はあった。六畳の部屋にベッドと座卓、その上にパソコン。それに向き合う彼女は、ピンクの鉄パイプ製の座椅子で身を支えている。「私の体に合わせて車椅子の業者さんに作ってもらったんです」と、ほほ笑むのは仙拓社員の高篠里緒さん(23)。確かに高篠さんの背に座椅子はフィットし、頭も支えている。

 高篠さんは「先天性ミオパチー」という病を抱える。生まれつき筋肉が固い病気だ。背骨は筋肉に抑えられ曲がってしまう。肺も圧迫されるので、呼吸も十分できない。気管を切開してのどに穴をあけ、酸素を補っている。

 高校の支援学校を卒業後、学校で紹介された事務職に就いた。車椅子通勤は困難で、自動車で送迎してもらった。疲れやすく、小刻みに休憩を取らねばならない。職場も理解していたが、「申し訳ないという気持ちが強くて」と、落ち着けなかった。

 そんな高篠さんをスカウトしたのが、同じ学校の先輩、佐藤さんだ。「健常者以上のタイピングスピードを持っている」点に目を付けた。「文章表現もうまく、広報も任せたい」とも。ネックだった通勤も「しなくていい。それにエネルギーを費やすなんて無駄」と、高篠さんの不安を一蹴。二〇一六年六月、採用が決まった。

 ありがたいのは、体調などに合わせ、自分のペースで仕事ができること。週二回の勤務も認めてくれた。「社長自身が障害者なので、分かってくれる安心感がある」と高篠さんは言う。

 とはいえ、「世間で戦えるレベルの仕事」を目指す社長の要求レベルは高い。入って早々、高篠さんは新企画を任せられた。名刺整理の代行サービス事業を立ち上げるのが任務だ。プロジェクトマネジャーの肩書が責任の重さを語る。黒のスーツに着替え、企業を営業に回ることも。

 「少しずつですが契約も取れ始めています。記者さんもいかがですか?」。パンフを渡して説明を始める高篠さん。「営業に大事な愛想に、キラッと光るものを感じた」という佐藤社長の評はこれかと感じた。

スマホに次々送られてくる指示に目を通す浦田充さん=埼玉県桶川市で

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 所変わって埼玉県桶川市。筋ジストロフィーで車椅子に乗る浦田充さん(25)も仙拓で働く。私大の法学部に通い、成績もトップだったが、コンピューター言語も勉強していた。就職に悩んでいた時にフェイスブックで佐藤社長と知り合った。就職で困っていると相談したら、「うちでバイトしないか」と誘われた。「実は社長と直接顔を合わせたことがなくて。採用面接もネット上でした」と笑う。

 仕事はホームページのデザイン。顧客の満足を得るため、修正や書き直しの指示はしょっちゅう。「でも行き詰まった時、少し違う角度から別の解決法を提案するのは得意。自分ではそう喜ばれていると思っているんですが、どうでしょう」。控えめな“どや顔”で浦田さんは、ほほ笑んだ。

 ハンディがあっても生き生きと「稼げる」社会。それを実現するには、現行制度にはどんな課題があるのか。次回、二十二日の(下)で。

 

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