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【暮らし】

介護施設での身体拘束 「縛られた」事例なくせず

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 認知症などで他人に暴力を振るったり、動き回ったりする人をベッドなどに縛り付ける身体拘束。現在、介護保険サービスを提供する施設では、利用者のけがを防ぐなどの場合を除いて認められていない。しかし、例外に当たるかどうかの判断は施設に委ねられており、不適切な状況でも拘束が行われるケースがある。拘束されたことで傷つく人もいるし、体や脳の機能低下を招くこともある。 (出口有紀)

◆人手不足、とっさの判断で

 「普段はよく話す母が無気力になり『私は縛られた』『動けないようにされた』と言った」。昨年八月上旬、愛知県内の女性(54)は、県内の住宅型有料老人ホームに入っていた母親(87)の言葉に耳を疑った。

 女性や施設、地元の市によると、女性の母親は昨年七月下旬、安全ベルトで車いすに固定された。母親は頻尿だが、脚がふらつきトイレに行くには介助が必要。その日は施設での催しのため、五人ほどのスタッフらは全員が設営や利用者たちの誘導などに追われ、母親を見守れなかった。

 「スタッフの一人が転倒や骨折を心配し、とっさの判断で拘束してしまった」と、施設管理者の男性(43)は説明する。ベルトをつける際、母親には「危ないから」と声を掛けたという。

 身体拘束には、徘徊(はいかい)や転落、他人への迷惑行為防止のため体をベッドやいすに縛る行為のほか、チューブを抜かないよう手指の動きを制限する手袋を着用させることや、向精神薬を過剰服用させることなどがある。二〇〇〇年の介護保険制度導入に伴い、施設の運営基準では原則、禁止された。厚生労働省の有識者会議による手引(〇一年)では(1)本人や他の利用者らの生命や身体に危険が及ぶ可能性が著しく高い(2)他に方法がない(3)拘束が一時的−の三条件を満たす必要がある。拘束時は経過観察の記録をとり、利用者や家族の理解を得る。

 女性からの通報で調査した市の担当者は「やむを得ない状況だったかは疑問。施設の認識不足」と、口頭で施設を指導した。施設内で拘束が日常的だったかどうかも聞き取り「拘束はこの一度だけで、その後はないと聞いている」という。

 その後、母親は施設を移った。女性は「言葉が不自由な人だったら、家族は拘束されても分からないまま。また、知っても施設に遠慮して言えない人もいるのではないか」と話す。

◆「いる」回答の23%NPO調査

 身体拘束の廃止に取り組むNPO法人「全国抑制廃止研究会」(東京都日野市)は二〇一五年、特別養護老人ホーム(特養)や介護付き有料老人ホームなど全国の九千二百二十五カ所を対象に拘束について調査。回答した当日に、身体拘束を受けている利用者が一人でも「いる」とした施設は、有効回答の23%に当たる二千六十九カ所。医療系の施設では、拘束している施設の割合がさらに高かった。

 拘束の仕方では「ベッドを柵で囲む」が「いる」としたうちの47%、「手袋をつけさせる」が45%、「車いすやいすにベルトなどをつける」が31%と多かった。

 研究会理事長の吉岡充さん(68)によると、拘束されて同じ姿勢が続くと、筋力や心肺機能が低下し、肺炎や感染症にかかりやすくなる。不安や恐怖心が高まると認知機能が下がるという。「拘束はいいわけがないが、施設では人手不足の一方、重い要介護度の利用者が増えている。拘束せずに全員をみるのは大変になっている」と危惧する。

 吉岡さんが運営する多摩平の森の病院(日野市)は、前身の上川病院(八王子市)のころから三十年以上、拘束廃止に取り組んでいる。患者たちの生活や習慣を本人や家族から聞きケアするほか、柔らかい素材の床や低床ベッドを導入し、転倒や落下によるけが防止などに努めている。

 

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