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【暮らし】

<ともに>「弱者」を戦力に(下) ハンディあっても「能力」必要

 障害、子育て、介護、病気などのハンディを抱える「わけあり人材」が増えていくこれからの日本。では、本人が力を発揮するためには何が必要か。重度障害者の「寝たきり社長」として知られる、仙拓(愛知県東海市)の佐藤仙務(ひさむ)社長(26)も、「うちは完全に能力重視です」と言い切る。 (三浦耕喜)

 佐藤さんは、一読すると「またか…」とため息が漏れるメールを受け取ることがしばしばある。「自分を雇ってほしい」という各地の障害者からのメールだ。佐藤さんは言う。「きつい言い方ですが、これを就職活動のつもりで送っているなら、上手ではありません」

 それは、人の哀れみにすがろうとする内容に感じられるからだ。「『私は大変なんです』『働いたことがありません』『だから雇ってください』というのがほとんど。私も障害者なので大変なのは分かる。でも、仕事とは、人のため、社会の役に立ち、それがお金になるということ。『かわいそうだから雇ってください』と言うのは、筋が通らない」と手厳しい。

 確かに体は不自由かもしれない。だが、障害があっても戦う武器はあると佐藤さんは言う。「まずは、自分の障害ときちんと向き合うこと。もちろん、弱いところも見える。だが、絶対に強いところも見えてくるはずだ」と。その強さが見えるからこそ、前回(十五日)紹介した通り、キーボード入力にたけた人をスカウトし、コンピューター言語を操る人に声をかけた。「僕は身体的には弱者だとは思うが、社会的な弱者だと思ったことは一度もない」という。

 障害者が「弱者」から抜け出せるようになった背景には、近年のIT技術の進展が大きい。通勤しなくてもITを通じて打ち合わせをし、チームでの作業ができるようになった。

 だが、「障害者雇用促進法」は一九六〇年制定の「身体障害者雇用促進法」が前身。IT時代の到来など想像もできない時代だった。「半世紀もたてば、考え方も技術もまったく変わる。なのに、いまだ企業に『雇ってもらう人数』を増やすことを目的に、政策が作られている。だが、このままでは戦力にならない社員を増やすだけだ。だからこそ、障害者を戦力にするという発想が重要になる。ITはそれを可能にした」と佐藤さんはいう。

 障害者の働きやすい環境を整えてきたIT。それは、障害者だけでなく、さまざまなハンディに制約されるすべての「わけあり人材」にとっても働く上での後押しとなる。

 労働問題に詳しい京都大大学院経済学研究科の久本憲夫教授(62)は「子育て、親の介護、本人の病気や障害など、人々はいろいろな『制約』の中で生きている。今は何もないように見える人も、いつそうした制約を受けるかわからない。これからの企業は、そうした状況に社員が置かれることを前提とした制度を作るべきだ」と企業の改革が必要だと指摘する。

 人口減少社会の日本にあって、人材確保はあらゆる企業で緊急の課題だ。「この先、障害者など、ハンディのある人をきちんと戦力にできる企業と、それができずに戦力が足りなくなる企業に分かれると思う。今がその分かれ目ではないか」。佐藤さんはこう警告している。

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