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【暮らし】

<パパ初育休 口唇裂の子を迎えて>(4)待ち受ける手術 「必ず治る」励ましに勇気

手術から約3カ月後。手術痕も薄くなってきた=東京都内の自宅で

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 昨年七月の第四子の誕生に合わせ、育児休業を二カ月間取得したのは、私(37)が上のきょうだい三人の面倒を見ることで、妻(37)が口唇裂(こうしんれつ)のある三男に集中して付き添えるようにするためだった。とはいえ、赤ちゃんはかわいい。私も六年ぶりの入浴や、哺乳瓶での授乳に挑戦した。

 苦労したのが授乳。口の右上が鼻の近くまで裂け、内側の歯茎も割れている。口唇裂の子は、口の中の上部も裂ける「口蓋裂(こうがいれつ)」を併発するケースが多い。その場合は自力で飲むことができず、胃にチューブを挿入すると聞く。うちの赤ちゃんに口蓋裂はなかったが、口が完全に閉じないので授乳は大変だった。

 一生懸命おっぱいや哺乳瓶に吸い付くが、唇の隙間から空気が漏れ、うまく飲めない。疲れて眠るが、満腹ではないからすぐ泣きだす…の繰り返し。出生時に三七五〇グラムあった“大型新人”は、十日後に約百グラム減っていた。通院時には看護師から「起こしてでも飲ませて」と厳しく指導された。裂けた上唇をとじる手術を十月に控え、全身麻酔に耐えられるよう、少しでも体重を増やさなければならない。

 口唇裂の赤ちゃん用に、特殊な哺乳瓶がある。値段は張るが、数種類を試すうちに飲みやすいものが見つかった。授乳中に眠ろうとする時は、かわいそうだけれど足の裏をくすぐって寝かさない。赤ちゃんが吸い込むタイミングに合わせて哺乳口を強く搾り、一吸いでたくさん飲ませるというこつもつかみ、毎回たらふく飲ませた。

 かくして体重は五キロを超え、生後二カ月半で無事に手術を受けた。縫合された口元は血がにじみ、麻酔のせいか顔が腫れ上がっている。傷口を触らぬよう、両手を拘束するのも忍びなかったが、これは序章にすぎないのだ。

 この病気の子は歯並びが悪くなるので、五歳前に歯科矯正を始めるのが一般的だ。また、うちの赤ちゃんは小学校入学前に再び口や鼻の整形手術をする方針。さらに八、九歳ごろに腰骨を移植して、歯茎の割れた部分を埋める手術をする。

 主治医からは「八年もたてば、医療技術の進歩で腰骨を削る必要はなくなるでしょう」と説明されたが、成長とともに口や鼻の左右の対称性がずれてくれば、手術を繰り返すことになる。

 幼い子に何度もメスを入れるのは、本当にやり切れない。でも、手術をすれば良くなるはず…と自分に言い聞かせた。そんな時、まだ赤ちゃんが生まれる前、医師である知人が酒席で掛けてくれた言葉を思い出した。「落ち込む必要は全くありません。必ず治る病気ですから」

 育休中の飲み会でも、赤ちゃんの口唇裂を打ち明けたことがあった。パパ友や懇意になった取材相手からありがたいお誘いを受けたときは、妻の許しを得て週に一回ほど飲みに出掛けていたのだ。すると、打ち明けた相手から驚きの答えが返ってきた。

 「私もそうでしたよ」。傷痕も見えず、全く気付かなかった。「必ず治る」という医師の励ましは、掛け値なしの言葉だったんだ。酔いが回っていたせいかもしれないけれど、幾度もの手術に立ち向かう勇気が湧いてきた。 (山口哲人)

 

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