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【暮らし】

<家族のこと話そう>「商売の心」祖母に学ぶ 作家・山口敏太郎さん

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 小学生のころ、週末になると、父方のばあちゃんがやっていた花屋さんで店番をしていました。徳島市の二軒屋町という、お寺がいっぱいあるところ。店にはシキビやサカキ、キンセンカ、キクなどがあって、墓参りの人たちが買いにきていました。

 「死んだ人が夢に出てきた」「お父さんの幽霊を見た」といった話をする人もいて、僕はそこで死生観、人が死ぬということに触れたところがあります。怪談や都市伝説、妖怪、幽霊が好きなのは、そんな花屋で育ったからかなと。

 ばあちゃんはもともと大阪の道頓堀で三味線を弾いていた芸人さん。お客さんを笑わせたり、人生相談に乗ったりと、人の心をつかむのがうまい。お客さんの名前は必ず覚えていたし、競争相手に差をつけようと、墓参りに行く人にサービスでバケツと水を貸したり。非常に頭が良かったですね。

 七、八歳のとき、僕は近所の子どもから安く仕入れたおもちゃをクリーニングして、道端に敷物を敷いて並べ、利益を上乗せして売りました。百円玉がじゃらじゃらと集まって、結構もうかった。胸を張って帰ると、ばあちゃんが怒ったんです。「商売は、買う人も仕入れ先も幸せにしないといけない。それなのに安く買いたたいて、高めに売っている。商人としてやってはいけないことだ」と。僕は泣きながら、買った子の家を回ってお金を返しました。

 あれが僕の原体験。作家も商売です。取材先が気持ち良く話せる状態をつくり、「本にしてくれてありがとう」と言われる仕事をする。読者が値段以上に中身が詰まって面白かったと思うぐらい、過剰に情報を入れてサービスする。編集者が出世できるようにヒット作を出し、本屋さんをもうけさせる。関係先全てを幸せにする商売をやらないといけないというのが、僕のベースにあります。

 後は、おやじの影響が大きいですね。おやじは高卒で徳島通運(徳島市)に入り、専務にまでなりました。知らない会社でも平気で名刺を持って行き、仲良くなって新しい仕事を取ってくる。押し付けがましいやり方ではなく、会話から相手の会社が抱える問題点を把握し、うまくボールを投げて「頼んでみようか」と思わせる。相手のためになることをして、自分も利益を得る。それは、ばあちゃんの考え方とすごく似ています。

 僕も、知らない出版社にふらっと行って、仲良くなって仕事をするし、どんな町にもまちおこしに行きます。そういうの、ワクワクする。積極的に相手に飛び込む、おやじの姿勢が役立っていますね。

  聞き手・河郷丈史/写真・木口慎子

<やまぐち・びんたろう> 1966年、徳島県生まれ。本名は間敏幸。日本通運勤務を経て、専業作家へ。都市伝説や怪談、未確認生物などを題材に約170冊の著書がある。2006年に山口敏太郎タートルカンパニー(千葉県船橋市)を創業し、執筆・編集やタレントのプロデュース、まちおこしなどの事業を展開。岐阜市・柳ケ瀬商店街のお化け屋敷のプロデュースを手掛ける。

 

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