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【暮らし】

<走る在宅診療医>(上)四万十の医師に密着 命に寄り添う「みとり」

施設を訪ね、徐々に弱っていく患者に寄り添う映画の一シーン=ディンギーズ提供

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 生老病死は人の定め。権勢におごっても、やがて最期は訪れる。その時をどう迎えるか。その結末は人生の幸・不幸を左右する。高知県・四万十川の四季を背景に、多くの人たちの命に寄り添ってきた医師を追ったドキュメンタリー映画が完成し、東京などで上映されることとなった。「自分は幸せに死ねるのだろうか−」。見る人は、それぞれの立場で考えさせられるだろう。 (三浦耕喜)

 映画の名は「四万十・いのちの仕舞い」。監督の溝渕雅幸さん(55)は元新聞記者で、前作の「いのちがいちばん輝く日」(二〇一三年)でも、終末期のがん患者などが人間らしい最期を迎えるための施設「ホスピス」に密着。人の「みとり」にこだわってきた。

 前作では、臨終の瞬間にも立ち会った。映像表現としては「タブー」とされる人の「死に顔」にもカメラを向け、みとりの在り方を世に問うた。今作でも、高知県四万十市で診療所を開き、主に高齢者の在宅診療に力を入れる医師の小笠原望さん(66)に密着した。

 重いテーマだが、四万十川の四季折々の風景も手伝って、映画には柔らかな雰囲気が漂う。夕刻、診療所での外来診療が終わると、軽自動車で患者宅に向かう。山深い過疎地のこと。車がすれ違えない崖道を通る時もあるという。

 在宅診療で訪ねた九十二歳の女性は末期のがんを抱え、自宅での療養を選んだ。当初、はっきりしていた声が、診療に立ち寄るたびに弱々しくなる。「何を食べても味がしない。(好物の)ブリの味がほしい」とかすかな声で訴える女性。「しんどさが取れるように薬を考えるから」と小笠原さん。女性は痛みも苦しみも訴えることなく、家族に見守られ、三日後にこの世を去った。

 在宅だけではない。小笠原さんは老人施設も回ってみとりをサポートする。長年診てきた女性(86)の体調が悪化したとの連絡に施設に駆けつける小笠原さん。女性はもはや食べ物を受け付けなくなったという。

溝渕雅幸監督

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 診療所が開く前など、時間をやりくりして通い、点滴の注入液量の調整などをする。やがて脈も触れず、心音も小さくなった。小笠原さんは女性の息子に状況を説明する。「ぎりぎりの状態です。ここからは、みとる場面に入る方がいいと思います」。うなずく家族。翌日、家族に見守られて女性は亡くなった。「本当にすごくがんばりましたね。命というものを見せていただきました」。声をかける小笠原さん。その声を聞いてか聞かずか、故人の穏やかな横顔も画面に映りこんでいる。

 人のみとりにこだわるのは、監督自身の経験も背景にある。新聞社で記者をし、その後、映像の世界へ入っても、みとられることのない死を取材することが多かった。「そこには、遺族の癒やされることのない悲しみ、止まってしまった時間、行き場のない怒りがあった」という。

 だが、阪神・淡路大震災をきっかけに、見方が変わった。同震災では六千人以上が犠牲となったが、同じ年、日本では九十二万人が亡くなっていた。「事故や災害でなくても、本来、死は私たちの身の回りにいつもある。なのに、死を直視することは避けられてきた。それを打ち破り、『よいみとり』『幸せなみとり』を追究したかった」という。

 命が受け継がれる幸せなみとり。その実現には。「下」に続く。

 【東京での上映日程】K’sシネマ(新宿区)で二十四日から。初日から二十六日まで監督の舞台あいさつあり。(問)同シネマ=(電)03(3352)2471。

 

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