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【暮らし】

<ともに>A型事業所の挑戦(中) 働く喜び実感

笠原勝巳さん(手前右から2人目)が見守る中、パンの成形をする障害者と健常者の職員たち=名古屋市北区のベーカリーハウスわっぱんで

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 パンを成形する職員たちの後ろで、障害がある男性がうろうろしている。作業の進み具合を気にして、時折職員たちの様子をうかがう。男性の仕事は、パン生地を入れた箱が空になると、すぐそばの流し台まで運ぶこと。

 「もう一個、お願いします」。職員から声が掛かり、男性の出番がきた。両手で箱を抱えて流し台へ。箱を洗うのはまた別の障害者。パンを焼く型の焦げ付きや汚れを取り、油を塗るなど、障害者が担当する仕事はさまざまだ。

 「成形に時間がかかると、パンの発酵が進み膨らみ方が変わってしまう。成形は誰にでもできるわけではないけれど、全体の工程を細分化し、障害者がやれることを増やしている」。名古屋市北区の障害者就労継続支援A型事業所「ベーカリーハウスわっぱん」の工場長笠原勝巳さん(43)は話す。

 火に掛けた小鍋の前で、じっとしている女性も。「彼女は耳が聞こえないが、ゆで卵を作る係。働きづらい人にも、工夫して仕事をつくるのが僕らの役目」と、笠原さんはほほ笑む。

 職員二十二人中、障害者は十四人。知的が多いが、精神や身体の人もおり、一日の労働時間は八〜七時間。「障害の程度は関係なく全員が同僚。二年ほどのキャリアの僕から見たら、皆が先輩。一緒にできることを考えて働くだけ」と笠原さんは言う。

 パンは生協などへ卸したり、路上で販売したりしている。工場内のホワイトボードには「クロワッサン七百五十グラム、バゲット一キロ、くるみパン四キロ」など、その日に作る分がずらりと書き出されている。健常者の職員がボードを見て動くと、障害者の職員も一緒に作業する。障害のある人もない人も、スピードは違うが黙々と作業する。滞っている仕事があると、お互いに手伝う。

 二年半前から働く伊藤亜希子さん(40)は一般企業に派遣社員として勤めていたが、うつ病を患い、障害があっても療養しながら勤められる職場を探していた。「他のA型は、内職をしているところが多かった。それまで一般企業などで働いていたのに比べると、物足りなかった」。ここに来てからは、派遣の時より給料は減ったが「一日八時間の労働に見合っていると思う。指導員と利用者という関係ではなく、フラットな関係性がいい。あせらされることもなく、無理なく働ける。長く続けたい」と働きやすさを感じている。

 知的障害がある天野洋志さん(41)は、働き始めて二十七年になるという。「月曜から金曜日まで働いているが、仕事は楽しい。だから、休みの日はさみしい」と話す。

 このA型では、まずは利用者が興味のある仕事をやってみて、一人一人が得意なこと、やれることを職員たちが見つけている。笠原さんは「意思表示が苦手な人でも、日ごろの付き合いがあれば分かる。それは障害者でも健常者でも同じ。パン作りも、僕も最初からうまくできたわけではない。障害者も一緒で、少しずつできることに慣れていったらいい」という。

 しかし、笠原さんは、利益を出そうと努力しているA型を後押しする仕組みが不足していると感じている。二〇一三年に障害者優先調達推進法が施行され、国や市町村は物品調達で障害者就労施設などを優先すると定められたが、同法が浸透してきたという実感はない。「法律を周知し、さらに障害者が働く喜びを感じ、一般の人が満足する商品やサービスを提供しているA型がもうけやすいシステムを作ってほしい」と話す。 (出口有紀)

 

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