東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 2月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<運転 卒業させるには> (上)本人が「納得」できる形に

杉山孝博さん

写真

 認知症が疑われる高齢者による自動車事故が全国で相次ぐ。事故を起こす前に運転をやめてほしいと家族が頼んでも、なかなかハンドルを放そうとしない人は少なくない。本人が納得できる形で運転を「卒業」してもらうには、どうすればいいか。公益社団法人「認知症の人と家族の会」副代表理事で、川崎幸クリニック(川崎市幸区)院長の杉山孝博さん(70)にその方法を聞いた。 (河郷丈史)

 「認知症の世界は論理が通用しないことが多い。『説得』ではなく、本人が『納得』できるようにすることが大切です」と杉山さんは話す。そのためには、本人の気持ちを理解して、寄り添う姿勢を示すことが基本だ。

 実際は運転が危うかったとしても、本人は自信を持っていることもあるし、逆にどこかで不安も感じていることもある。そんなとき、「運転が下手になった」と家族からストレートに言われたら、プライドを傷つけられたように感じ、かえって強引に運転しようとするかもしれない。

 例えば「ハンドルの切り方が心配だったね」などと、さりげなく繰り返し言うことで、本人が自発的にやめるのを促す。認知症の人は、信頼できる身近な人に対して症状をより強く出す特徴があり、いつも介護している家族にはきつく当たりがち。ほかの親類から話してみると、反応が変わることもある。

 主治医や警察など、公的な権威があるとみられている人から話してもらうのも効果的。「認知症が進んでも、社会的に信用されている人への信頼は変わらないことが多い」からだ。場合によっては「免許制度が変わって高齢者は免許証を更新できなくなった」とうそをつくのが有効なこともある。これも制度という「公的権威」を利用する方法だ。

 一般論として、人は失敗して自信をなくすと、物事をあきらめやすくなるが、それは運転にこだわる認知症の人も同じ。もし、本人が車を傷つけたり、軽い事故を起こしたり、運転をためらうような状況になったら、それはやめさせるチャンスでもある。

 多くの人が運転にこだわるのは、車に乗れないと制約される部分ができるからだ。家族が運転して本人を助手席に乗せるなど、ある程度満足できるようにした上で、免許返納を促すことも場合によっては必要だ。

 どうしても危ないときは、車のバッテリーを上げたり、キーを隠したり、車を処分するなどして、物理的に乗れないようにするほかない。ディーラーと話を合わせた上で「修理に出している」と説明するなど、「本人が納得できる『シナリオ』を作り、俳優になったつもりでうまく演じることが必要です」と杉山さんは話す。

 次回(三月七日)は、こうした「シナリオ」作りがうまく運び、本人が「運転しなくて良かった」と納得するに至った事例を紹介する。

<認知症の人に運転をやめてもらえた事例>

・医師から運転をやめるように話したら、予想に反して素直に認めてくれた。尊敬する人や職業の人から言うと効果的だった。

・一度、ほかの車からクラクションを鳴らされた。運転に自信がある人だったのでショックだったと思う。「もう運転は終わりにしよう」と言ったら、すんなりやめた。

・ある時、車の鍵をなくしたと言い出した。私が探したら見つかったが、そのまま隠し、ディーラーには本人が鍵の作製を頼んでも応じないよう依頼。本人が反発して半年ほど険悪になったが、何とか受け入れてくれた。

※認知症の人と家族の会神奈川県支部のアンケート(2009年)結果を基に作成

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報