東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし > 暮らし一覧 > 3月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

<運転 卒業させるには> (下)安全願い、優しいうそも

写真

 認知症で運転が危うくなってきた人にハンドルを手放してもらうには、どうしたらよいか。二月二十八日の前回は、専門家に「納得させることが大切で、ときにはうそを言うのも有効」と指摘してもらった。そこで今回は、周囲が「シナリオ」を作り、本人の運転への執着をなくすことに成功したケースを紹介する。 (河郷丈史)

 紹介するのは、名古屋市内の男性(73)のケース。七年前に認知症と診断されたが、運転を続けていた。妻(73)も「無事故、無違反で、もともと安全運転の意識が強い人」と思っていたからだ。

 ところが、運転がおぼつかないことが出てきた。妻は「運転をやめさせなければ」と思ったが、男性は認知症が進み攻撃的な言動をするようになり、言い出せなかった。そこで、車のキーの電池を抜いて乗れないようにした。しかし、男性は車のドアを力ずくで開けようとするなど、あきらめる様子はなく、車への執着は消えなかった。

 二年前、担当のケアマネジャーから、多くの認知症に関する相談にのっている名古屋市昭和区の認知症対応型デイサービス「あつまるハウス駒方」所長の皆本昌尚さん(43)を紹介された。皆本さんは「維持費が大変でしょう」「高齢者の事故が増えて不安ですよね」などと声を掛けたが、男性は「車は趣味」と頑として聞かなかった。

 そんなとき偶然、男性の車がリコールの対象となり、自宅に通知のはがきが届いた。皆本さんは、男性にはがきを見せて「修理に出す」と伝え、実際には処分するシナリオを考えた。妻が顔なじみの業者に事情を説明した上で、車を預けるための書類は男性にサインさせ、車を引き取ってもらった。その後、妻が正式な売却手続きを済ませた。

 車が戻ってこないことに、男性は「盗まれた」などと漏らすこともあったが、そのたびに妻は話題をそらしてやり過ごした。男性は日常的に目にしなくなったことで車を思い出さなくなり、次第に「あきらめるしかないな」と言うようになった。今は高齢者事故のニュースに「車がなくて良かった」とも話している。

◆リコール修理装い車売却

 認知症介護指導者でもある皆本さんに、今回のポイントを聞いた。

 ◇ 

 認知症になっても、感情を伴う記憶は保たれやすいといわれる。「車を奪われた」という負の感情が残ると、怒りの矛先が家族に向きかねない。「運転をやめて」と言った後で車がなくなったら、男性の怒りが妻に向けられたかもしれず、キーを使えなくしたのは悪くなかった。ただ、車がある限り執着は消えない。

 シナリオには、本人が納得できるような配慮が必要だ。書類にサインしてもらったのは、自ら判断したという実感を持ってもらうため。後日、男性が車を思い出すこともあったが、目の前になければ執着は次第に薄れていく。

 リコールがなくても、私の知り合いに修理業者役を頼み、車を本人から遠ざけるというシナリオを考えた。事実ではないが、本人の安全を願う優しいうそだ。

 <考えたシナリオ>車がリコールの対象になり修理が必要という、本人も「納得」できるストーリーを説明する。業者にも協力を依頼して車を処分。車が男性の目に入らないようにする。男性が車のことを思い出して聞くことがあってもやり過ごし、執着が薄れるのを待つ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報