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【暮らし】

<ともに>グループホーム世話人(上) 一人の泊まり勤務に不安

入居者の生活を支援する女性(左)。「命を預かる責任は重いが、自分が支えなければと思う」と話す=滋賀県内で

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 障害者が地域で暮らす「グループホーム」。そこに住む人たちの暮らしを支えているのが「世話人」だ。入居施設からグループホームなどに生活の場を移す地域移行が進む中、世話人の重要度は増している。しかし、必要な資格や研修制度はなく、仕事内容に明確な定めもない。世話人たちはどんな苦悩を抱えているのか。 (細川暁子)

 滋賀県内のグループホームで世話人をしている女性(69)は五年前、入居後間もない自閉症の男性(29)に、廊下で背中を突き飛ばされた。男性は体が大きく、力も強い。女性はうつぶせに倒れたまま床を滑り、柱に頭をぶつけた。頭に手を当てると、血がにじみ出ていた。

 世話人をするようになって十年目のこと。夕方、廊下で男性と目が合い、にこっと笑いかけてすれ違った直後だった。

 病院で三針縫い、しばらくすると痛みは引いた。しかし、再びホームに仕事に行って男性の顔を見るのは怖かった。だが、休んでいる間、ほかの世話人の負担が増すことを思い、一週間ほどで復帰した。

 ホームの入居者は当時、知的障害や自閉症の男女五人。世話人は他の二カ所と合わせて十五人で、全員がパートだった。一つのホームに午後四時から翌朝九時まで一人ずつ泊まり込み、食事を作って食べさせたり、薬を飲ませたり。洗濯などの身の回りの世話もしていた。入居者が外出しない土日は日中の勤務者も必要だし、入居者が体調を崩して付き添いが要ることもある。調整してローテを組み替えるのは大変なことだった。

 「入居者の中には、人と目が合うと強い不安にかられる人もいる。それが原因だったと今は分かるけれど、当時は分からなかった」。女性はそう振り返る。

 長年、物流会社に勤めた後、短期間だが高齢者施設で働いた。全盲だった母の世話もした。しかし、障害者と関わるようになったのは世話人を始めてから。世話人になるのに資格や経験などの要件はなく、福祉団体主催の講演会が年に数回ある程度。最初の数日間、先輩の様子を見て仕事を覚えた。

 地域移行が進み、人に暴力を振るったり、自傷行為をしたりする「強度行動障害」の人たちもホームにくる。力になりたいという思いの一方で、負担が増したと感じることもあった。

 ホームを運営する社会福祉法人が世話人の配置を見直したこともあり、現在は同じ法人の別のホームで月六回、泊まり勤務をしている。入居者は男女二人。自閉症で強度行動障害がある女性(42)は、気に入らないことがあると腕をギュッとつねってきて、あざが残ることも。突然、世話人の部屋の前に包丁などの台所用品をぶちまけられたこともある。世話をしようとしても、出ていけとばかりに足を押されることもしばしばだ。

 世話人が情報を共有する会議も月一回開かれるが、不安や愚痴は口にしにくい。かといって、入居者とは信頼関係ができており、自分が支えなければという思いは強い。辞めるわけにはいかない。

 十五年前に一泊九千二百円だった宿泊手当は、国や自治体の補助金が増えたこともあり、今は一万三千二百円。自分の年齢で、これだけの賃金をもらえる仕事は他にないと思う。しかし、女性は言う。「入居者の命を預かったり、自分の身を守ったり。いつ何が起きるか分からず、一人での泊まり勤務は常に不安」

<世話人> グループホームで食事作りや体調管理などを行う人で、「キーパー」などとも呼ばれる。障害者総合支援法では、「障害者の福祉の増進に熱意があり、障害者の日常生活を適切に支援する能力を有する者でなければならない」と規定されている。ただ、正職員でもパート職員でもよく、介護や医療などの資格は不要で専門知識を学ぶ研修も義務付けられておらず、仕事内容などもあいまい。ホームで、世話人の夜間配置も義務付けられてはいない。

 

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