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【暮らし】

あらゆる人を戦力に(上) 「わけあり人材」に挑戦促す

「元気にやってる?」と、従業員に声をかける斎藤幸一社長(右)=宇都宮市で

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 「わけあり人材」を生かせ−。障害、介護、子育て、闘病など、さまざまな制約がある人たちが仕事で本気を出し、成果を出せる社会づくりこそ、日本が富を生み続けるために急務。「言うは易(やす)し、行うは難し」だが、あえて「難し」に挑み、成果を挙げている宇都宮市の中古タイヤ販売会社を訪ねた。(三浦耕喜)

 わけあり人材を積極的に雇い、事業を拡大しているのは「アップライジング」。宇都宮市や群馬県太田市で中古タイヤ販売店を展開する。従業員・スタッフ約六十人のうち、障害者や元薬物依存患者、元ニート、年金プア、シングルマザー、外国人など、何らかの配慮を要する人は半数程度。

 宇都宮駅まで斎藤幸一社長(42)自ら出迎えてくれた。乗ってきたのは黒塗りのセダン。商売の順調ぶりをうかがわせる。

 看板ネコたちにあいさつして、斎藤さんと、専務で妻の奈津美さん(39)に話を聞く。障害者や引きこもり経験者、元薬物依存患者など「何らかのハンディを負っている人を積極的に雇っていると聞きましたが」と問うと、奈津美さんが答えた。

 「『ハンディ』と言っても一人一人違うし、仕事に向かう姿勢も異なります。『こういうハンディなら、こんな仕事が向いている』というものはありません。あえて今までと違うこと、新しいことをさせないと、その人の本当の力は分からない。仕事が面白くなくなり、すぐ辞めてしまう。店としての生産性も上がりません」

 わけあり人材を雇い、「生産性」にこだわるのは、そのためだ。斎藤さんが言う。「最初、私はそこを履き違えていました。『もうけなど関係ない。ボランティアのつもりで雇うんだ』と」

 二〇〇六年に創業した。経営方針に悩むこともあったというが、気持ちが定まったのは東日本大震災後に足しげくボランティアに通ってから。炊き出しのラーメンをおばあちゃんに手渡した時、その目に涙が光っているのを見た。「人を喜ばせるとは、こんなにうれしいものなのか」

 斎藤さんは決めた。「うちで障害者を雇う」と。「困った人を助ける社会貢献をしようと思ったのです。生産性など上がらなくてもいいから」と振り返る。

 翌年、障害者施設から二十代と四十代、二人の男性が紹介された。ともに知的障害者で、最初はコミュニケーションの取り方も分からなかった。タイヤを洗う単純作業をしてもらった。しかし、しばらくしてスタッフの一人が言った。「タイヤの組み込みもできるかも」。四十代男性のタイヤを扱う時の力強さに気付いたのだ。

 斎藤さんは「ホイールを傷付けるのでは。高価な機械を壊すのでは…」と案じた。だが、実際にやってみるとその不安は消えた。今では機械とバールを器用に使い、一日に百本以上と、障害がない人と大差ない本数を仕上げ、トラブルもない。

 「すっかりうちの戦力です。他の人には代えられません」と斎藤さん。二十代男性も、一つのことに集中するのは苦手だが、さまざまな仕事を覚えるのは得意だと分かった。

 斎藤さんは言う。「結局、私はどこか彼らを見くびっていたのです。実際の戦力にはならないと。ボランティアで雇ってやるだなんて、何とおこがましいことか」

 奈津美さんがフォローする。「でも、得がたい人材を見つけられた。スタッフ間のコミュニケーションが密だったからです」

 人はその人を知ることで力を引き出せる。誰もが経験あるだろう。では「引き出された」人はどう感じていたか。四月二日の(中)に続く。

 

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