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【暮らし】

<わたしの転機>心肺蘇生法 全国で説く 教育長の時に児童亡くしAEDの活用推進に尽力

AEDの普及に努める桐淵博さん。「明日香ちゃんがいつも心の中にいる」=さいたま市で

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 「自動体外式除細動器(AED)を使えば助かったかもしれない」。遺族の訴えが胸に刺さった。2011年、さいたま市内の小学6年の桐田明日香ちゃん=当時(11)=が課外活動中、心停止し亡くなった。当時、市教育長だった桐淵博さん(65)=埼玉県伊奈町=は「日本AED財団」の理事として、蘇生法の普及に努める。

 明日香ちゃんが倒れたのは、千メートルを走り終えた直後でした。「なぜ明日香を助けてくれなかったのか」。ご自宅に伺ったとき、母親の寿子さんにこう言われました。

 心停止後、三分以内にAEDを使えば七割の人は助かるとされています。当時、既に全校にAEDは置かれていたし、教職員向けの講習も行われていました。しかし、明日香ちゃんには使われなかった。心停止直後に現れるあえぐような呼吸(死戦期呼吸)を見て、息をしていると思ってしまったからです。泣きながら、再発防止に取り組むことを約束しました。

 市教委は事故の翌年、倒れた人が呼吸をしているかどうかはっきり分からないときでも、AEDの使用を促すテキストを作りました。テキストは明日香ちゃんの名前を取って「ASUKAモデル」と名付けられ、教師や子どもを対象にした学校の心肺蘇生法の講習会などで使われています。

 教育長を退任後、埼玉大教育学部の教授を務めました。当時、教師を目指す学生が受ける教職課程に、救急対応を学ぶ授業はありませんでした。学生に事故防止や危機管理への意識を高めてほしくて、寿子さんと共同で講義をして救急隊員らを招き、心肺蘇生法の実習を行いました。

 大学を退職してからは、病気の妻を介護する傍ら、医療やスポーツ関係者らと設立した「日本AED財団」の活動で、全国の学校などを回ってASUKAモデルについて講演しています。心停止直後の死戦期呼吸はあまり知られていません。明日香ちゃんのような事故をなくすには、広く知ってもらわなくてはなりません。

 数年前、私も実際に救命を経験しました。駅の改札口近くで六十代ぐらいの女性が倒れていました。声を掛けても反応がなく、呼吸している様子もなかった。両手で胸を押し続けると、女性はうめき始め、呼吸が確認できるようになりました。早い段階での救命処置の重要さは分かっていても、その場面に直面すると、とても勇気がいりました。でも、倒れている人を見ながら通り過ぎたら、明日香ちゃんに顔向けできない。一歩踏み出せば、助かる命があるんです。

 いつも心の中に明日香ちゃんがいます。財団の活動でできた人のつながりは、明日香ちゃんが残した人の輪。私はその輪を広げていきます。 (細川暁子)

 

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