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【暮らし】

<ともに>伝統産業を継ぐ(上) 障害者の新たな働く場

生田一舟さん(左から2人目)らの指導で、工程の一部を体験する生徒たち=静岡県伊東市で

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 障害のある人が働く場として、後継者不足に悩む伝統産業が注目を集めている。障害がある人の中には、長時間の集中力や、絵やデザインの才能がある人が少なからずおり、手作業が多い伝統産業ではこうした能力を生かせる工程があるからだ。就労を間近に控え、行き先に不安を抱えた若者のために、京友禅の染色技術を生かした取り組みを始めた福祉施設を訪ねた。(砂本紅年)

 「まぜまぜしてごらん。さあ、どうなるかな」

 静岡県伊東市の一般社団法人「ひかり」が運営する、障害のある子どものための放課後等デイサービス(放デイ)。一月に開かれた植物染色の体験会で、法人の代表理事、生田一舟(いっしゅう)さん(50)が山桃の木から作った茶色い液体の染料が入ったボウルを差し出した。

 染料に漬けて茶色くなった白い布を、続けて色素定着用の透明な液に漬けると落ち着いた黄色に。化学変化に、作業した知的障害のある十代の男子生徒二人は目を輝かせた。「一番楽しい色の変化を見せたかった」。子どもたちの表情に生田さんはほほえんだ。

 生田さんは禅僧でもある。二〇一六年五月、お堂の一部で放デイを始めた。以前は大手銀行に勤めた。しかし、利益偏重の姿勢など銀行のありように悩んだころ、仏教に出合い僧侶になった。行員時代に社会貢献活動に携わった経験から、子どもの役に立ちたいと放デイを開き、現在はダウン症や知的障害、発達障害のある県内の六〜十七歳の三十三人が通う。

 絆が深まるにつれ、気になるのは子どもたちの将来だ。来春には、四人が特別支援学校高等部を卒業する。通ってくる子どもが高等部を卒業するのは初めてのことだが、生田さんは「就労まで切れ目のない支援をしたい」と自ら就労施設を立ち上げることにした。

 どんな仕事が向いているのか。真っ先に頭に浮かんだのが、知人で京都市の友禅作家の山本晃さん(74)だ。京友禅の世界で長く途絶えていた、梅の木の皮や根を煮出した液を染料とする草木染めの「梅染め」の技法を復活させた名匠だ。

 生田さんが山本さんに出会ったのは数年前。僧侶として生きる決意を固めようと訪れた京都・知恩院で、たまたま開かれていた展示会で山本さんの作品に出合った。「こんな色彩があるのか」と感銘を受け、連絡を取り合う仲になった。

 梅染めは手間ひまかかる上に明治時代には途絶えていた。古文書と格闘するなど約二十年かけて復活させたが、着物の需要も細る中、後継者は育っていなかった。生田さんの呼び掛けに心が動き子どもたちの指導を引き受けた。

 生田さんは、障害者が働くためには一人の作業範囲を狭めることが必要と考えた。京友禅の製造工程は染料作り、デザイン作成、染料を布地にぬる作業など十二に分けられ、各工房を回って完成する。山本さんは全ての工程を一人で担うが、生田さんは「個性に合った作業を見つけて能力を伸ばしていけば、皆で伝統を継承できるかもしれない」と自信を深めた。

 一六年秋から、放デイの活動などで染色体験を重ねた。生徒たちの反応に手応えを得た生田さんは、昨年七月、お堂の近くに工房を開設した。

◆「伝福連携」の取り組み

 伝統産業と福祉が連携して、障害者の雇用を生み出す取り組みは「伝福連携」といわれ、京都市などで始まっている。

 同市では後継者不足は大きな課題。例えば京友禅・京小紋に携わっている人は二〇〇六年に約二千三百人いたが、一四年は千人を切っている。

 そうした中、昨年は精神障害のある男性が京ろうそくの会社に絵付け師として就職した。市の担当者は「非常に細かく根気のいる作業だが、男性の商品は他と比べても遜色ない」と話す。「後継者難の伝統産業を担う人材として、障害者と伝統産業をつなぐことができれば」。今年四月、京鹿(か)の子絞のメーカーでも、発達障害の男性が働き始めている。

 

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